サイトアイコン Skima信州-長野県の観光ローカルメディア

“文化としての映画”をつなぐ拠点、上田映劇。|支配人インタビュー

わたしにとって映画は、子どもの頃から文化だった。

共働きの親がいない間にお小遣いを握りしめて往復したのは、図書館と本屋と映画館。特に映画館は特別なご褒美だ。

かつては足繁く通ったあの映画館も、今は高層マンションに生まれ変わっている。いよいよ閉館となったとき、身内でオールナイトの上映会をしたことを覚えている。

あのとき、わたしは「ひとつの文化が終わった」と思った。

文化としての映画を、その拠点としての上田映劇を存続させたい

とある映画館の支配人の言葉を聞いたとき、わたしはふとそんなことを思い出した。100年続いた劇場が閉館して6年ぶりに復活した折、東京からUターンして支配人になる道を選んだという。

彼もまた、文化としての映画を愛するひとりだ。

上田映劇は、大正時代から100年以上の歴史を持つ長野県上田市の老舗劇場である。商店街から1つ奥に入った古い歓楽街の一角にひときわ目立つ「あさくさ雷門ホール」の看板。

一度は定期上映を終了した上田映劇を復活させ、新たな支配人とともに再スタートを切ったのは2017年4月のこと。厳選した作品をミニシアターとして定期上映し始めて2年が経った。1年目は3,000名ほどだった来場者数も2年目には倍の7,000名を突破するなど、徐々にその人気を取り戻しつつある。

「映画の街 上田」のシンボルとして

長野県の東部に位置する上田市。

東京から新幹線で90分という好立地もあり、昔から映画の舞台やロケ地として活用されてきた。上田市街地には狭い範囲にたくさんの劇場や映画館があったため、文化として、映画や芝居を身近に感じている地元市民も少なくないという。

芝居小屋の名残を残し舞台仕様の劇場。コンサートなどのイベントにも利用できます。

そんな上田市に芝居小屋の劇場として、大正6(1917)年にオープンした上田映劇の前身「上田劇場」。昭和時代に入ると映画を中心に上映されるようになり「上田映画劇場」と名前を変え、現在の「上田映劇」となった。

しかし映画人口の減少と大手シネコンの台頭などにより経営が悪化し、2011年4月をもって定期上映を中止。

閉館中の2013年には劇団ひとり監督作品『青天の霹靂』のロケ地として使用され、昭和40年代の浅草雷門ホールを再現したセットがそのまま残されている。

主演・大泉洋演じる主人公のコンビ名「ペペとチン」のめくり。
上田映劇2階には、映画で使用された楽屋のセットがそのまま残っている。

「どれがセットでどれが元の姿なのか、正直分からない」と支配人の長岡さん。今でも多くのファンがロケ地めぐりに訪れている。

「上田映劇再起動プロジェクト」開始

上田映劇を復活させようと、2016年12月に「上田映劇再起動プロジェクト」がスタートした。2017年の4月には支配人に長岡俊平さんを招き、創立100周年を記念して定期上映を再開させる運びとなった。上田映劇が閉館してから6年後のことだ。

2018年には上田映劇を文化の拠点として活用しつつ、上田映劇の保存し映画・映像文化を中心とした地域の芸術文化活動の活性化に寄与することを目的に「特定非営利活動法人 上田映劇」が誕生。

こうして一度は消えかけた文化が有志によって再出発を果たした。閉館した映画館が定期上映を再開した例は、日本でも他になかったという。「続ける」ことの難しさを知っている上田映劇だからこそ、今後の活動に注目が高まる。

再出発を果たした「上田映劇」の今とこれから

今回はそんな上田映劇にて、支配人の長岡さんと、スタッフのひとり「もぎりのやぎちゃん」に話をうかがった。

お話を伺った方

長岡俊平さん:上田映劇支配人。愛知県名古屋市出身、上田市育ち。
やぎちゃん:上田映劇スタッフ兼広報。「もぎりのやぎちゃん」として活躍中。

昔の映画館らしいフロントでインタビュー。

東京の大学院生として映画史を学んでいた長岡さんに「上田映劇」に携わらないか、とお声がかかったのは2015年の春。父方の実家が上田市にあり、中学・高校時代を過ごした長岡さん。高校卒業と同時に一時閉館した上田映劇には、幼い頃からよく通っていたそうだ。

長岡俊平さん(以下長岡さん):父の仕事の関係で、幼稚園の頃から名古屋と上田を行き来する生活を送っていました。小学校の頃から父や祖母に連れられて、上田映劇にもよく足を運んでいたんです。高校生の頃にはすっかり映画が好きになっていたんですけど、ぼくが高校を卒業する2011年になくなってしまって……。

経験もノウハウも0から

長岡さん:最初の1年間はそれこそ、右も左も分からない状態でした。映画館でアルバイトしたことはあっても、経営については素人だったんです。映画館を復活させた方なんかに話を伺いにまわって、ノウハウを学んでいきました。

「本当に良い映画をかければ、お客さんは足を運んでくれると思っていた」

ーー支配人として活動を始めて、難しい・大変だと思うことはありましたか?

長岡さん:やっぱり一番難しいのは宣伝の部分ですね。ぼくは支配人を実際にやってみるまで「本当に良い映画をかけていればお客さんは足を運んでくれるだろうな」という安直な考えを持っていて……。でもそうじゃなくて、本当に映画を観ない人が増えていると実感しました。

今まで上田映劇でかけた作品は、上田市内では上映されたこともない良作ばかりでした。映画が好きな人って、もちろん映画館にも足を運ぶし、映画の情報を積極的に調べるんですけど、意外とそういう人は少ない。

映画に触れる土壌みたいなものがなくなっている状態で、映画の文化を1から根付かせることの大変さを実感しています。どうやったら映画にも興味を持ってもらって、足を運んでもらえるのかなって。

ーー確かに。まずは「文化としての映画」に触れてもらうところから始めなければいけないんですね……。

やぎちゃん上田映劇は一度閉館して6年ぶりに復活したんですけど、通った方が「ここの映画館閉まってるんだよね〜」って言いながら過ぎて行って……。やっているのに!って。復活したことを伝える難しさは未だに根強く残っていますね。作品単体に関しても、どうやって作品の宣伝をしようか、作品の魅力に合わせて考えています。

ーーまずは映画自体に親しんでもらうこと。それから上田映劇を知ってもらうこと。上映作品を広報すること。それぞれ発信していく難しさがありますね。

お客さんの半数以上は60代以上のシニア世代。映画文化は根強いようだ。

やぎちゃん日本人1人当たりの年間鑑賞本数は1.3本(※1958年は12.3本)だそうです[土田環, 2016 , 「映画上映活動年鑑2016」, 一般社団法人コミュニティシネマセンター, 22~29P.より]。できれば上田市だけでも、この数字を1.5とか、2にできないかなって。別に上田映劇だけでなくても、映画を観て欲しいなって気持ちがわたしの中にはありますね。

やぎちゃん:例えば先日(2019年3月)上映した『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、映画に馴染みのない人にも楽しんでもらえる作品だと思って、熱量込めて宣伝しました!ストーリーがシンプルで分かりやすくて、ワッと泣けるような。もちろんわたしが好きだからっていうのもあったんですけど(笑)

やぎちゃん:これからもTwitterなどでは、映画好きじゃなくても映画や上田映劇に興味を持ってもらえるような発信を続けていければと思っています。

ーーなんだか、先ほど長岡さんがおっしゃっていた難しい部分が解決されそうな発信方法ですね!広報として「もぎりのやぎちゃん」が誕生したエピソードなども聞かせてください。

看板娘「もぎりのやぎちゃん」誕生

「もぎりのやぎちゃん」が誕生したのは、上田市で開催されたとあるイベントでの自己紹介。後日「もぎりのやぎちゃん」としてTwitterアカウントを作り、たちまち上田映劇の看板娘になった。

やぎちゃん:“もぎり”って響きがなんか良くて使い始めました。あとでとある方に「もぎりはあくまで裏方なのに、キャラクターとして前面に押し出したところがすごいよね!」と言われたんですけど、わたしはそういう映画館の常識も知りませんでした(笑)

ーーTwitterを見ていても、ハッシュタグ「#もぎりのやぎちゃん」「#もぎりのやぎちゃんはみんなの推し」など、愛され方が伝わってきます。やぎちゃん目当てに来るお客さんもいらっしゃるんですよね。

「もぎりのやぎちゃん」を超えていけ!

やぎちゃん:「もぎりのやぎちゃんがいるから来ているんだよ」って言われることもあって、それはとっても嬉しいんだけど。好きになってもらいたいのはやっぱり、上田映劇なんです。私の先にある上田映劇そのものの魅力を感じて欲しいと思っています。

もぎりは別にわたしでなくても良くて、もぎり2号、3号と増えていってもいいし。「上田映劇に行くと誰かしら楽しい人がいて、良い映画が観られるよね」って言われたいです。そうやってふわっと上田映劇に関わる人が増えていけばいいかな〜って。「もぎりのやぎちゃん」を超えていけ!みたいな(笑)

やぎちゃん:上田映劇の魅力は、お客さんとの距離が近いことだと思います。お客さんの意見は、即反映したいし、これからもいろんなイベントを企画していく予定です。今度上田出身の鶴岡慧子監督作品『まく子』でおやこ上映会をやるんですけど(2019年3月イベント終了)、お客さまから親子で見たいんだけど、そういうイベントを企画してくれないかって言われて実現しました。

これからの「上田映劇」まずは、存続すること。

ーーここまでは、これまでの上田映劇について伺ってきました。最後に今後の展望などを聞かせてください。具体的に、1年後、5年後、10年後の目標や理想なんてありますか?

長岡さん:とりあえず今年は雨漏りがひどい屋根の修繕をどうにかしたいです。5年後には修繕が終わっているといいなって感じですね。あとトイレが洋式になって…(笑)元を残しつつ、綺麗にアップデートしていければいいな。そういう意味で経営面もしっかりしていきたいので、今後は特別会員なども増やしていければいいと考えています。

長岡さん:10年後には「映画といえばここだろう」って場所になっていたらなと。上田市には「劇場/ゲストハウス 犀の角」や「本屋未満」など、文化に触れる施設が他にもあります。この上田映劇はそれに乗っかった感じで始まったところもあるので、文化を作る拠点のひとつになればいいかなと思っています。

長岡さん:上田映劇を運営する「特定非営利活動法人 上田映劇」はもともと、建物の保全のために立ち上がっています。歴史的にも文化的にも、地域の方々にとっても価値のあるこの上田映劇を存続させていくことを大切にしたいです。

ーーなるほど。上田映劇を存続させていくためにも、金銭的な面は重要ですよね。

特別会員で応援!シートオーナーになろう

上田映劇の座席には、名前が記載されていることがある。これは「シートオーナー」といって、特別会員の特典なのだそう。いわば「座席につける広告」。特別会員になると、さらに年間パスポートを購入する権利も付与される。

Twitterなどで活躍中の「おいでよ上田」さんのシートを発見。

長岡さん特別会員は年額1万円、年間パスポートはプラス2万円です。会費は施設の修繕に充てさせていただいています。

やぎちゃん:上田市にお住まいでなくとも応援したい方は、特別会員になればお名前だけでもシートに記載することができます。実は私の友人も、県外在住ながら特別会員になってくれているんですよ。

ーー上田映劇を応援したいという方は、特別会員がオススメということですね。年に10回以上通える方は、さらに年間パスポートの購入がお得。ぜひご検討ください。

文化としての上田映劇を。

文化とは、一定の人たちによって抱かれ、共有された事柄を指す。正確にはわたしの持つ「映画文化」と、上田映劇を取り巻くそれは異なるのかもしれない。かつて住んでいたあの街の映画館はもうないけれど、あの時終わったと思った文化としての映画は、上田映劇を通して再び開化しているように感じた。

そんな応援の気持ちを込めて、主観たっぷりにこの記事を書いている。どうか文化としての映画と、みんなの上田映劇が続きますように。

上田映劇
所在地:上田市中央2丁目12-30
開館時間:9:00~22:00
公式HP:http://www.uedaeigeki.com/

モバイルバージョンを終了