「農業資産」
なくなったらきっとみんなが困るのに、当たり前すぎてその価値に気づけない。農業資産は、言葉通り「資産」であり「地域の宝」だと聞きました。資産は正しく運用し、管理する必要があります。宝ならば皆がその価値に気づき、守っていかなければなりません。
「まずは信州の農業資産について、知るきっかけをつくりたい」
そんな思いを持って、長野地域振興局では2017年から毎年「信州ため池カード」「信州棚田カード」などが企画されました。今年(2019)からは北信地域振興局と連携して「信州農業資産カード」の配布を実施しています。
今回は長野地域振興局 農地整備課の水野さん(写真左)と二木さん(写真右)に『信州農業資産カード』の目的や工夫、農業資産の現状や魅力などを余すことなくお話いただきました!
水野リエさん、二木秀幸さん(長野地域振興局 農地整備課)
信州の農業資産とは?
「農業資産」という言葉を初めて知った方も少なくはないはず。豊かな水源を持たない地域では、利水のために水路(疎水)をつくり、貯水のためにため池を造りました。また平地の少ない日本では傾斜地にも田んぼが造られ、棚田が多く存在します。
農業大国・長野県にもたくさんの農業資産があります。景色の美しさから、現在では観光スポットとして親しまれているものも。有名なところでは長野市戸隠の鏡池や茅野市の白樺湖、千曲市の姨捨の棚田などが当てはまります。
景色はもちろん、農業に携わる方々にとってなくてはならない農業資産。これらを一般の方々にも知ってもらおうと始まったのが「信州農業資産カード」です。
『信州農業資産カード』とは?
信州農業資産カードは、農業資産の「ため池」「棚田」「疎水」をめぐるともらうことができます。今年は長野地域、北信地域の計8箇所で配布。全てめぐってそれぞれの施設でスタンプをもらうと、信州農産物が当たる抽選に応募することもできます。また応募者にはもれなく信州農業資産プレミアムカードもプレゼント!
信州農業資産カード一覧
今回、信州農業資産カードになったのは以下の8つ。
地域 | ナンバー | 名称 | カード配布施設 | 市町村 |
長野地域 | No.1 | 善光寺平用水 | 城山動物園 | 長野市 |
長野地域 | No.2 | 埴科用水 | 鉄の展示館 | 坂城町~千曲市 |
長野地域 | No.3 | 信更の棚田 | 茶臼山動物園 | 長野市 |
長野地域 | No.4 | 塩野の棚田 | 蔵のまち観光交流センター | 須坂市 |
長野地域 | No.5 | 針ノ木池 | 野尻湖ナウマンゾウ博物館 | 信濃町 |
北信地域 | No.1 | 針湖池 | 道の駅 花の駅・千曲川(観光情報コーナー) | 飯山市 |
北信地域 | No.2 | 北竜湖 | いいやま北竜温泉 文化北竜館 | 飯山市 |
北信地域 | No.3 | 巣鷹湖 | 野沢温泉スポーツ公園(インフォメーションセンター) | 野沢温泉村 |
1年目は長野地域「信州ため池カード」
初年度となる2017年には、それぞれの施設を訪れた方に信州ため池カードが配布されました。長野地域にある8つのため池をめぐってカードを集めます。ため池は湖のように観光地化されている場所も多く、絶景スポットとしても楽しませていただきました。
2年目は長野地域のため池+「信州棚田カード」
2年目となる2018年にはため池に加えて信州棚田カードも配布。ため池と異なり田んぼだらけの村落からお目当ての棚田を見つけるのは難しかったです。その分写真から撮影位置を特定する面白さを感じることができました。
3年目の今回は北信地域と連携して疎水、ため池、棚田などを。
そして3年目となる今回、2019年には「信州農業資産カード」として長野地域5つ、北信地域3つの農業資産がカードになって登場。野沢温泉村から坂城町まで、北信州を広くめぐれるコースとなっています。
スタンプラリー応募用紙に「信州農業資産カード」配布施設8ヶ所のスタンプを集めて応募すると応募者全員に「信州農業資産プレミアムカード」を進呈!
・上記のほか、抽選で50名さまに信州農産物の詰め合わせが当たります。
・スタンプラリー実施期間:2021年8月11日〜2022年1月28日(当日消印有効)
・限定1,000枚ずつ配布
「善光寺平用水」を案内していただきました
まずは農業資産カードの長野地域No.01、善光寺平用水を実際に案内していただきました。紫陽花の咲く土手沿いにきれいな水が流れています。ホタルの生息地でもあることから、豊富で上質な水源が守られていることがうかがえました。
自然にできた川のようにも見えますが、長野市を流れる裾花川から取水する人工の用水。等高線に沿う形で市街地を横断しており、私たちが身近に感じられる農業資産のひとつです。
二木さん:善光寺平用水は、農林水産省の疎水百選にも選定されています。裾花川から取水して長野市街地を横断するように延びているんですよ。疎水の引かれた時期ははっきりと分かっていませんが、鎌倉時代の古文書にも描かれていることから、鎌倉時代以前には現在の市街地を流れる疎水があったといわれています。
━━鎌倉時代!思った以上に古くからあることにびっくりしました。
二木さん:その時代の人たちの方が、お米を作ることに必死だったと思います。
━━生きていくために必要な知恵だったのですね。
━━カードのお写真もきれいですね。これはどなたかのご提供ですか?
二木さん:提供していただいたものもありますが、善光寺平用水の写真を撮ったのは職員です。カードに使う写真を撮るため、桜の時期にはここへ1週間通いつめました。今はだいぶ草が生い茂っていますが……。用水の管理により景観が維持されているのだと改めて実感しますね。
近くの「大口分水工」から3つに分かれる
水野さん:近くにある大口分水工もおすすめなんです!せっかくなので寄って行きましょう。
案内していただいたのは、善光寺平用水の看板から車で5分ほど南下した県庁となりの大口分水工。分水工とは、文字通り水を分岐させるための施設。その形はさまざまですが、公平に水を分けるために高度な技術が必要とされます。
水野さん:まさかこんなところに!って場所にあるのも面白いですよね。分水工は見ていて飽きません。
━━確かに、身近すぎて気づきませんでした。これも農業資産なんですね!
善光寺平用水はここで「八幡堰(はちまんぜき)」「山王堰(さんのうぜき)」「漆田川(うるしだがわ)」の3つに分水されます。
カードは城山動物園でもらいましょう!
農業資産を見てきたら、実際にカードをもらってスタンプを押してもらいます。スタンプを全てそろえると、信州農産物の詰め合わせが抽選で50名様に当たりますよ!
さらに、応募者にはもれなく信州農業資産プレミアムカードも進呈。ぜひチャレンジしてくださいね!
「きっかけ」づくりとしての農業資産カード
━━改めまして、本日はどうぞよろしくお願いします!わたしは個人的に1年目、2年目と挑戦して実際に見た信州のため池や棚田に魅了され、今やすっかり農業資産ファンになりました。めぐる施設やスポットもスキマ信州と相性が良いと思っていたので、今回はインタビューができて光栄です。
早速ですが、信州農業資産カードを企画した目的や経緯について聞かせてください。
二木さん:こちらこそ、毎年めぐっていただいてありがとうございます。今回3年目になりますが、一貫して長野地域への来訪者を増やす狙いがあります。実際にカードをもらった方の約4割が長野県外からの来訪客でした。
━━そんなに多いんですね!やはり「カード」が持つ収集性に魅力を感じる方が幅広くいらっしゃるからでしょうか?
二木さん:それはあると思います。ダムカードやマンホールカードなどが前身にあっての農業資産カードなので。
水野さん:私たちとしては、カードめぐりの過程でご飯を食べたりお土産を買ったり、そういった消費活動にもつながればいいとも考えています。
━━なるほど!カードの裏面に周辺の施設や農産物などが紹介されているのも、そういった狙いがあったからなんですね。
「家族でめぐれる農業資産」を目指して
二木さん:実はもうひとつ「家族でまわれる」ことも工夫したポイントです。農業資産自体はお子さんが見てもつまらないと思うかもしれませんよね。けれどカードを配布している施設は「動物園」「公園」「歴史館」など、子どもでも楽しめる場所をチョイスしているんです。
━━気が付きませんでした。確かに、必ずしも近いだけで配布施設になっているわけではありませんね。農業資産だけでなく、県内の歴史館や博物館にも立ち寄るきっかけになっていると。
二木さん:楽しみながら農業資産を知り、同時にその地域の歴史や文化を学んでもらえたらと思っています。まあ何に興味を持つかは人それぞれで、うちの子どもは動物園とソフトクリームを楽しみにめぐっていましたよ。
けれどいくつかめぐった後「夏休みの自由研究でため池を取り上げようかな」なんて言っていました(笑)
━━最初の目的は違っても、知るきっかけになれば嬉しいですね!
先人たちの努力により受け継がれてきた農業資産
━━このカードは農業資産をアピールする目的もあるかと思いますが、そもそも農業資産は私たちの生活とどのように結びついているのでしょうか?
二木さん:農業資産は先人たちの努力によって、現代まで大切に受け継がれてきました。傾斜に田んぼを作るために棚田が生まれ、棚田に水を引くために疎水が造られる。貯水するためにため池が造られ、収穫されたお米が私たちの主食となります。農業資産は私たちが「この地で生活していく」ために必要なものでした。
水野さん:農業資産に触れてから、当たり前だと思っているものが実は当たり前ではなくて、古くからの努力や想いが積み重なっているのだと知りました。地域の財産でもあるし、先人の努力があって今の信州が自然にあふれていることを皆さんにも感じてもらえれば嬉しいです。
水野さん:疎水をただの川だと思っている方も多いと思いますが、農業用の水路だと知るだけで「なぜそこに通っているのか」「農業資産ができる前はどんな場所だったのか」と歴史が少しずつ見えてきます。
この地で生活していくために知恵を絞って工夫して、みんなで力を合わせて造ったものが、今でも私たちの生活に寄り添っていると思うと、大切にしたい気持ちが芽生えてきませんか?
━━信州農業資産カードには、そんな先人の努力や工夫、歴史を知ってほしいという想いもあったんですね。
この景色を守るために、現実的な維持管理が必要
二木さん:長野地域では姨捨の棚田が有名で、棚田米の販売など振興事業にも力を入れています。この素晴らしい景色を守るためには、現実的な維持管理も必要。地域のみんなで農業資産を保全・管理していく必要があると考えています。
棚田には耕作してくれる方がいたり、ため池や疎水にも管理が必要だったり。農業資産は地域の大切な宝だと考えて、保全活動に理解を示してもらえたら嬉しいです。
水野さん:今回カードに選んだ「信更の棚田」も、上流は条件の悪いこともあり荒廃していました。ああいうのを見ると、個人的には悲しい気持ちになります。仕方のないことだとも分かってはいるんですけどね。条件の良い下流は広大な農地を維持しているので、このまま将来につないで欲しいと思います。
━━わたしも去年「信更の棚田」を偶然見つけて感動しました!ぜひ皆さんにも見てほしいし、こうした景色が失われつつある現実にも目を向けてほしいです。
二木さん:信州農業資産カードが、農業資産の魅力や課題についての理解が深まるきっかけになれば嬉しいです。
信州農産物にもこだわり!伝統野菜をピックアップ
━━実はわたし、カードはめぐっているのに面倒臭がって抽選には応募したことがありません……。どんな農産物が当たるのか教えていただけますか?
水野さん:ええ?!毎年とてもこだわっているので、今年はぜひ応募してほしいです。県外からの来訪客に向けて、信州の伝統野菜をチョイスしています。産地も明記して、加工場も含めほとんどが長野地域で作られている農産物なんですよ。
水野さん:去年は、外れた方にもさらに抽選で20名様にジャムとケチャップの詰合せをお送りしています。どちらも自信を持ってオススメする信州の農産物ばかりです。
二木さん:農産物が当たった県外の方からていねいなお手紙が届くこともありました。アンケートにも「毎年やってほしい」と書いてくださる方もいて、そういうのは励みになりますね。やっていてよかった!と思います。
水野さん:わたしは専門職の二木と違って企画が始まる3年前までは、農業資産の知識がまったくありませんでした。けれどこうして少しずつ知っていくに連れて、沼にハマっていったというか……。
━━今ではオススメの農業資産に「大口分水工」をピックアップするほどですもんね!企画側も参加側も、同じように熱を持っているからこそ続いていく企画だと感じました。農業資産カードはこれからも続けていきたいと思っているそうです。
信州農産資産カードをめぐろう!
━━インタビューを通して、お二人の農業資産愛が伝わってきました。水野さん、二木さん、本日はありがとうございます!
今年も農業資産カードめぐり、頑張ります。昨年までのカードめぐりは関連記事をご覧ください!