「東京から長野までの交通手段」と聞いて、みなさんはどのようなものが思いつきますか?
一般的には新幹線・高速バス・車あたりが想像しやすいように思います。
が、なんとこの令和の時代にJR中央線の高尾駅から長野駅まで、一切乗り換えせずに行くことのできる「各駅停車」が存在します。
どう考えてもヤバそうなイメージ…想像すればするほど気になって仕方がありません。
そこで、長野県内に移住した友人を訪問するついでに真相を確かめるべく、利用してみることにしました。
まさに狂気の沙汰!中央本線「441M」とは
「441M」とは14:09に高尾駅を出発し、18:51に長野駅に到着する正真正銘の普通電車。
2017年のダイヤ改正により、もともと松本駅止まりだったものが夕方の通勤・通学時間帯の乗り換えを解消する目的で、そのまま長野駅まで直通になったものらしい…。
意外にも新しい運行系統ですが、昭和の時代には同じ441Mという番号で新宿発長野行きという夜行列車があったそうです。
曜日を問わず毎日走っていますが1日にたったの1本しか設定されていません。中央本線から篠ノ井線、信越線を通りトータル55駅に停車。延べ245kmの距離を4時間42分で結んでいるのです。2015年に長野〜金沢まで延伸した北陸新幹線「かがやき」に乗れば、東京駅からたったの1時間30分で長野駅に着いてしまうのが令和の時代でございます。
ちなみに「中央線」という呼称は一般的に東京〜大月間を走るオレンジ色の快速電車を指し、
「中央本線」は東京〜塩尻間、塩尻〜名古屋間の総称としてよく使われています。
「あずさ」「かいじ」などの特急や主に高尾以西の駅で用いられており、どちらも同じ「中央線」であることに違いはありません。
かつてのメインルートは「信越本線」
新幹線がまだ無かった頃の東京(上野)〜長野間は、群馬県の高崎を起点に長野を経由し新潟に至る「信越本線」を使った特急「あさま」が運行されており、大きな役割を担っていました。
しかし1997年9月末、当時の長野新幹線「あさま」の開業と引き換えに信越本線は国鉄時代から続いた104年の歴史に幕を下ろすことになります。
中でも群馬と長野の県境に立ちはだかる難所「碓氷(うすい)峠」の区間は、利用客の減少に加え多額の維持費がかかるため廃止に。峠の両端を結んでいた横川〜軽井沢間は線路の分断を余儀なくされました。
ちなみに軽井沢〜篠ノ井間はJRから経営分離され「しなの鉄道」として運行されていますが、東京方面には直接行けなくなってしまったため、すっかり地域密着型のローカル線に変化しています。
一方、中央線であれば東京から長野まで今でもちゃんと線路が繋がっていて、各駅停車で長野に行けてしまう。しかも乗り継ぎ無し…!?素晴らしいじゃないですか!(全くもって時代錯誤の極み)
いざ乗車!もう後には引けない…!
筆者は千葉県在住のため、地元を12:30ごろ出発し、高尾駅には14:00に到着。
この時点で既に1時間半は電車に揺られ、高尾と聞けば「高尾山にでも登るんか?」といわんばかりのテンションです。
ありました!中央線長野行き……。
首都圏に住んでいる身としては普通の駅で「長野」の文字を見るのはかなり新鮮です。
まぁ普段からこの電車に乗っている地元の方にとっては単なる日常の一コマであり、特段気にする人はいらっしゃらないでしょう。
それにしても全区間乗り通す人間は一体、どれくらいいるのだろう…?
既に1両あたり少なくとも30名ほどの乗客が座り、発車を待っていました。
ここでふと思う。「Suicaで改札入ったけど長野駅ってSuica使えるんだっけ?」
車掌さんにどうしたらいいか尋ねました。
「長野までですか?(タブレット端末を取り出す)ちょっと調べますね…多分長野駅の窓口で精算できると思いますよ」
車掌さんの言葉からもどこか不安が残る感じ…やはり自分は一般的な利用客じゃなさそうだ。
使用される車両は「211系」と呼ばれるちょっと古めの6両編成。長野県民にとってはお馴染みの電車でしょうか。車内は11人がけのロングシートがあり、出入り口は片側に3箇所。かなり広々とした印象です。
一昔前の常磐線や高崎線など、近年まで都心に乗り入れていた「近郊型」と呼ばれるタイプで、首都圏で生活している身としては懐かしさを感じました。
一部の編成ではクロスシート仕様もあるらしいですが、当日どのタイプが来るかはお楽しみだそう。長時間座ってるとお尻が痛くならないか心配でしたが、そこまで座り心地は悪くない気がします。ちなみにトイレは設置されておりますのでご心配なく。笑
いよいよドアが閉まり発車すると同時に「長野駅まで本当にこれで行くのか」と…。
期待と不安が入り混じる中、まさに「耐久乗車」の火蓋が切られます。
のんびり電車に揺られ愉しむ至福の時間
高尾を出て早々、電車はまず神奈川県内へ。小仏峠など、山あいを縫うように走ります。まさに山岳鉄道!山が電車のすぐ近くに迫り、トンネルを何本も抜けていきます。
高尾を出て約1時間。甲斐大和駅に到着すると8分間停車し、特急電車に抜かれます。都内でもよく見かけるタイプのかっこいいやつ!この先、停車時間が長めに設定されているのは小淵沢と松本の2駅で各3分。後続に抜かれる停車駅はここ、甲斐大和駅のみ。それ以外の駅は原則待つ事なく発車していきます。
道中はおにぎりなど、小腹が空いた時のために食料を備蓄しておく事をオススメします。
ただ、匂いが強めな食べ物は避けたいですね…。
筆者は最後尾の一番端っこに座るなど配慮して食べました。
それにしても「ガタンゴトン」の音を聴き、山を見ながら食べるおこわ。めちゃ美味い…!笑
「俺は普通の電車で長野まで向かってるんだ!」と、ちょっとした高揚感がまた食欲をそそります。
高尾から乗務されていた車掌さんは甲府で交代。
この先松本で再度交代し、終点長野まで計3人の車掌さんが乗務されていました。甲府や松本など、終点の設定があるような駅に着くとやはり多くの乗客が降りていき、同時に同じくらいの乗客が乗ってくるといった印象。
東京から神奈川、山梨、山梨から長野と移り変わる景色と共に乗客も次々と入れ替わる。そんな中ただ一人、長野駅を目指してひたすら乗り続けるわけであります。
決して目まぐるしくなく、刻一刻と移り変わる車窓は新幹線のそれとは全然違います。
山肌の感じや街並みなど、その地域の特色を感じながら
自分の今いる位置を地図アプリで調べては外を見る、の繰り返し。
このあたりからしばらく開放感ある風景が続きます。
明科駅を出ると次の西条駅に向かって山越えのためトンネルの中を100km/hでかっとんでいきます。
ここで初めてスマホが圏外になりました…。姨捨までは比較的ひらけた景色を見ることができます。
いよいよ篠ノ井を過ぎるとラストスパートです。
篠ノ井〜長野間は新幹線開業後もしなの鉄道ではなく、JR信越本線として僅かに存続しています。
現在も長野県内において信越線と呼ばれるのはこの区間、9.3kmのみ。
かつての特急「あさま号」が走っていたころを想像しながら、長野駅はもうすぐそこだということを実感します。
終点長野駅!18:51に無事到着しました!いやぁ…長かったようであっという間!ではないですね。笑
あいにくの雨模様の中、大きなトラブルもなく245kmを完全走破。達成感のようなものを感じます。
「長野まで送り届けてくれてありがとう!」そんな言葉をかけてあげたくなりました。
さて、心配していたSuicaの件。途中一度も改札を通らず在来線で長野駅へ来た旨を申告します。「441Mで来ました」と言うとすぐにわかっていただけました。Suicaの入場記録を取り消してもらい、全額現金で精算します。改札口を出た途端、安心感といいますか、一気に肩の荷が降りたような気分になりました。(決して誰かに頼まれたわけではない)
最後に
いかがでしたでしょうか。
2023年現在、敢えて在来線のみを使って東京から長野へ行こうとすると、今回のように中央本線と篠ノ井線を経由するルートしかありません。
信越本線が本州の大動脈だった1997年までは、横川〜軽井沢間にそびえる碓氷峠があまりの急勾配のため電車は自力で走行することができず、この区間専用に開発された電気機関車を2両も連結。標高差553mを毎日上り下りしていました。
新幹線のなかった時代に東京と長野を行き来した人々を思い浮かべながら、たまには時間にゆとりをもってのんびりと長野へ足を運んでみるのも素敵だなと感じました。
最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました。興味を持たれた方は是非乗ってみてください!
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