建物が昔のまま残っている温泉宿にはとても惹かれます。タイムスリップしたかのような風情ある木造建築の宿。時間が止まったような懐かしい雰囲気。
そういった建物の風情が、またひとつ温泉情緒を盛り上げてくれていたりもします。宿の建物も温泉の魅力のひとつと言えるでしょう。
長野県北部の小谷(おたり)村。山に挟まれたこの村のさらに奥地、名峰「雨飾(あまかざり)山」のふもとに小谷温泉はあります。最寄りのJR中土駅からもおよそ10kmの距離。正真正銘の山奥の秘湯です。
この山峡に佇む一軒の温泉宿が山田旅館。江戸時代に建てられた本館が現存しており、国の登録有形文化財に指定されているほど。長年の厳しい自然環境にも耐えてきた、歴史を物語る立派な木造建築がそこにはあります。
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小谷村の山奥、雨飾山登山口に佇む秘湯の一軒宿「山田旅館」
山峡の県道を雨飾山方面へと走り続けると、山の中に突如大きな温泉旅館の建物が見えてきます。こちらが小谷温泉の山田旅館。かつては三軒の旅館があったものの、現在では山田旅館の一軒のみが営業しています。
立派な建物の外観もさることながら、所々で昭和以前の懐かしい趣きを感じまず。入り口からすでにタイムスリップしたような感覚に。
玄関に入るとご主人がお出迎え。旅館の温泉について親切に教えて下さいました。
山田旅館の浴室は2つあります。
・元湯 湯殿(日帰り入浴 500円)
・外湯 展望風呂(日帰り入浴 700円)
日帰り入浴の場合、どちらかを選ぶかたちになります。
平成26年に改装オープンした外湯は、眺望の良い露天風呂に檜造りの内湯、シャワーなども完備されています。
しかし、ここの名物はやっぱり元湯の湯殿でしょう。旅館の中心にある元湯は100年以上も変わらぬ浴槽。内湯だけのシンプルな造りですが、大正ロマンあふれる素晴らしい風情があります。
今回は元湯の方に入浴。ずっと昔から変わらない浴室。年季のある入り口から胸が高鳴ります。
狭めの脱衣所も良き風情です。いざ、入湯。
100年以上変わらぬ元湯湯殿で貴重な重曹泉を楽しむ
泉質は炭酸水素塩泉である元湯の源泉。旧泉質名で言えば重曹泉です。うっすらと茶色く濁るお湯はなめらかな肌触り。とろみのある極上湯です。
湯口はかなり高い位置にあって、そこから滝のように豪快に源泉を注いでいます。湯量も豊富であり大量に掛け流し。お湯の鮮度がとても良いです。
元湯にはシャワーなどの洗い場は無いので要注意。
代わりに、別源泉を使った掛け湯があります。小さな桶にドバドバと投入されるこのお湯は、炭酸が残っているシュワシュワとするぬる湯。暖まりすぎた身体を冷やすにはもってこいです。
浴槽脇には謎のイスのようなものが。これ、湯口のところにできた析出物だそうです。温泉成分だけでこれほどまで巨大な塊を作ってしまうのだから凄い。年輪のような模様もあって一見の価値アリですよ。
浴槽の隅には枕付きの寝湯スペースもあります。やや深めの浴槽は妙に安心感があり、ものすごく落ち着きます。鉄の香りがするよく温まるお湯でした。
湯上がりはホカホカ。まさに”湯殿”と呼ぶにふさわしい、どこか神聖な空気が漂う良き風情の温泉です。
江戸時代建築の本館は国の登録有形文化財
温泉入って眠くなったので、入り口のロビーでしばし休憩。標高が高いだけあって、吹く風が涼しく心地よい。なかなか帰る気が起きなくなってしまいます。
湯治宿らしい素朴で良い雰囲気。
玄関には西日が差し込み幻想的です。
飾り気のないこの雰囲気が気に入りました。
山田旅館の建物は、本館をはじめとしたいくつかの建物が、文化庁の登録有形文化財に指定されています。このような貴重な国民的財産に、実際に宿泊できたり入浴できたりするのだから凄いです。
江戸末期に善光寺の宮大工によって建てられたという本館。長年の厳しい自然環境に耐えてきた木造建築は、独特の年季が入っており圧倒させられます。この時間が止まったような雰囲気は、もはや現代においては再現不可能でしょう。
山田旅館の元湯源泉は、明治時代にドイツで開催された「万国霊泉博覧会」に出泉されたという歴史があります。同じく日本を代表する温泉として選ばれたのが、登別、草津、別府といった顔ぶれ。
源泉はすべてが昔から自然湧出するものであり、すべての浴槽で完全源泉掛け流しで提供されています。山田旅館がずっと昔から湯治客に愛され続ける理由、まさにそれなのかもしれません。
山の水でキンキンに冷えたビールや夏野菜がありました。湯治で長期滞在とか、いいだろうなあ。
小谷温泉 山田旅館(やまだりょかん)
泉質:Na-炭酸水素塩泉
泉温:48℃
加水:なし
加温:なし
還流:掛け流し
住所:北安曇郡小谷村中土18836
料金:500円(元湯)、700円(外湯)
営業時間:10:00~15:00
定休日:なし
公式ページ:http://otari-onsen.net/
小谷村の山奥の地に佇む秘湯の一軒宿「山田旅館」。
時間が止まったかのような懐かしい雰囲気の木造建築、そしてなにより、ずっと昔から湧き続ける極上の温泉がそこにはあります。
【連載】教えたいけど知られたくない!信州のスキマ温泉めぐり
長野県の温泉地数は224ヶ所、245ヶ所の北海道に次いで日本第2位!ちなみに温泉利用の公衆浴場数は、654ヶ所と日本一を誇っています。
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