世界中で使われる旅行サイト「トリップアドバイザー」が発表した2018年「外国人に人気の日本のレストラン トップ30」に、長野県松本市の飲食店がランクインしています。
サイト内に投稿された、外国語の口コミ評価をもとに作成されたランキングには、東京都、京都府などの大都市圏の飲食店が多く目につきます。しかし、その強豪の中ランクインしたのが、我らが長野県松本市の2つの飲食店。「小料理 いとう家」と「インド家庭料理ドゥーン食堂 印度山」です。
全国の飲食店の中でベスト30に選ばれるとは、どんなお店なのでしょうか?
「外国人に人気の日本のレストラン 2018」で28位に選ばれた、松本市中町通りで営む「小料理 いとう家」オーナー伊藤久美子さんに、外国人観光客をもてなす秘訣を聞いてきました!
松本市「小料理 いとう家」とは?
「小料理 いとう家」はオーナーである伊藤久美子さんがおでんや郷土料理を和服姿でもてなす、2003年に松本市中町通りでオープンした小料理屋です。「トリップアドバイザー 外国人に人気の日本のレストラン 2018」で28位にランクインしました。その前年には、外国人観光客のための英語メニュー対応、観光プラン相談が評価され、長野県が表彰する「信州おもてなし大賞2017」で奨励賞を受賞しました。
外国人観光客が増える松本市。メニューを外に出すことで、どんな店か知ってもらえる
外国人観光客の来店が増えたという実感があったのは2015年。インバウンドという言葉がメディアで流れ、日本全体に外国人観光客が増え始めた頃です。「メニューを見せてほしい」と店内に入ってくる外国人観光客が多くなりました。
英語のメニューは無かったので、英語やジェスチャーで少し説明するくらいだったそうですが、忙しくてすぐに対応できないこともあったとのこと。そこで、店外に英語のメニュー表を出しておくことにしました。
「外国人観光客は、この店がどういう店なのか、どういうものを食べられる店なのか知りたい。だから英語メニューを見たいと言うのです。」
外の看板で教えてあげれば、お客さんがお店に入るかどうか、外で考えることができます。
「外でメニューを見ることができれば、店に入らなくてもいいですよね。外で店に入るか判断してもらえるのなら、結局は私の対応も減って負担が減る。そして観光客も気軽でいいでしょう。」
情報を発信するために、店をトリップアドバイザーに登録したのもこの頃です。店に訪れるほとんどの外国人観光客が、トリップアドバイザーの口コミを見て来店したと答えるようになりました。
メニューを英語表記のカード型に。日本食を食べてみたいという気持ちに応える。
同年、取り組み始めたのが、カード型の英語メニューづくりです。日本酒や和食メニューがカード1枚に1品ずつ、写真と英文で紹介されています。外国人観光客から注文があったメニューから作り始め、1~2年かけて完成させました。
「外国人観光客には、画期的なシステムだと喜んでもらえています。1品ごとバラになっているので、このメニューを食べる、食べない、と分けて、そこからチョイスできるのがいいみたい。」
売り切れの場合はカードを渡さなければいいので、伊藤さんにとっても説明の手間が省けて気が楽とのこと。
人気メニューは「キノコ炒め」。キノコは長野県の名産品でもあります。メニューを見て、食べたいもの、試したいものを見つけてもらえるようです。
「世界中で和食が浸透していて、なんともない味噌汁なのに『ミソスープ』と呼び、喜んで食べてくれます。昔は、おにぎりの『海苔はあんまり食べたくない…』といった方もいましたが、この3年くらいでコンビニのおにぎりで親しみが出てきたのか、注文も多くなりました。」
ベジタリアンやビーガンには個別に対応
食事に対する多様な考え方を持つ外国人は多いのが現状。いとう家ではベジタリアンとビーガンには個別で対応しています。対応できるメニューは、カードに分かりやすく記載しているとのこと。
「ベジタリアンやビーガンは、地方にくると困っている方が多いみたい。この前、来店したカップルは『昨日はコンビニのおにぎり以外、何も食べられなくて泣いてた、だから今とってもハッピー』と言っていましたね。」
いとう家は、ベジタリアンやビーガンの情報サイト「Happy Cow(ハッピーカウ)」で紹介されていることから、頼りにしている観光客が多いようです。
「ある日、ベジタリアンの来店がとっても多い日があって、なぜ来店したのか聞いたら、ハッピーカウに載っていたからって教えてくれて。私は何もしていないのだけど、お客さんの誰かがやってくれたみたい。」
会話は定型文とジェスチャー、分からないことは『Sorry, I don’t know.(分からない)』でOK!
外国人への接客で戸惑ってしまうのが英会話。英語に親しみのない方は、どのように対応すればいいのでしょう?
「英語と日本語のミックスで話す、または単語だけで話してもいいのではないでしょうか? そんな時に、やっぱり英語メニューはあると便利。話さなくても、メニューと指さしだけでいい。」
分からないなら分からないなりに、気持ちを持って対応すれば、相手は分かってくれるとのこと。難しく考えなくてもいいのかもしれません。
「『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』『どっち?』などは日本語でいいと思う。むしろ嬉しいかもしれませんよ。日本の接客を受けることが旅の醍醐味でもあります。」
そして、意外と英語圏の観光客は少ないそう。
「例えばフランス、ドイツ語圏の方に、日本人が変な英語を話したとしても、なんとも思われませんよ。」
伊藤さんは、短大の頃に英語を勉強し、日常会話に困らない程度には英語を話せます。それでもコミュニケーションで話す言葉は、だいたい一緒とのこと。
「『松本にいつ来た?』『どこから来た?』『次はどこへ行くの?』など、同じようなことを聞いています。たまに難しいことを聞かれると動揺しちゃうけど。そんな時は、会話ではなく単語やジェスチャーで対応しています。本当にわからなければ、最後は『Sorry, I don’t know.』(分からない)」
翻訳アプリ「Voice Tra(ボイストラ)」を使用することもあるそう。このアプリでは、こちらの日本語や、観光客が話す言葉を、指定する言語に翻訳して音声再生します。逆翻訳もしてくれるので、翻訳が正しいかどうかも確認することができて、使い勝手がいいとのこと。
外国人観光客が来ないのは『どんな店か分からない』から
日本への外国人観光客は増加している現状。しかし、地方には外国人観光客があまり来ていないお店もあるそうです。伊藤さんは、そんなお店にも英語のメニュー看板を外に出すことや、英語メニューカードをつくることを推奨しています。
「『うちは海外の人があまり入ってこないから、来ないから、食べないから、英語のメニューは必要ない』とおっしゃるお店もありますが、それは大きな間違いだと思っています。外国人は “どんなお店か分からないから” お金を使わないだけなんです。」
『うちは蕎麦屋だからわかるだろう』とこちらは思っていても、英語で外に書いてなければ、外国人には分かりません。」
どんな店なのか分かってもらえなければ、選択肢にも入れてもらえないのかもしれません。
「貪欲なんですよ、海外の人は。いろんな店に行きたいし、いろんなものを食べてみたいし。」
私たち日本人も、どんなお店か分からなければ、お店に入らないことも多いのでは?外国人にとって、日本は異国の地。余計にハードルが上がると考えた方がよさそうです。
「英語に投資することは、損ではないと思います。満足してもらうことが、次のお客さんにも繋がります。『あそこが良かったよ』とトリップアドバイザーに口コミを入れてもらえること、『お母さんや友達が良かったと言っていた』と来店する人もとっても多いです。
外国人観光客も、どうせ行くならおいしいものを食べたい、いい体験をしたいと思っています。英語表記の外看板を出すこと、カードメニューをつくることは、ぜひ飲食店の方に真似してほしいです。」
地方都市のお店が、全国30位以内に入るという快挙。その裏には、外国人観光客の希望を、当たり前に対応したいと努力する、気配りと優しさのおもてなしがありました。
取材協力:いとう家 http://nakamachi-street.com/shop/itouya/
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