VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー

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2023年7月15日より、松本市美術館にて展覧会「映画監督 山崎貴の世界」が始まりました。松本市出身の映画監督であり、CGを駆使した映像表現「VFX」の国内第一人者として知られている山崎監督。展覧会では、そんな山崎監督がデビュー作『ジュブナイル』(2000年)以降に手掛けてきた映画にまつわる絵コンテやデザイン画、ミニチュア、衣装、実物大のセットなど、300点に及ぶ展示品を見ることができます。

この記事では展覧会のレポートとともに、展覧会実現の背景にある「一般社団法人松本映画祭プロジェクト(以下、松本映画祭プロジェクト)」と山崎監督との15年間にわたる物語をお届けします。

来場者数2万人突破!(8/24現在)「映画監督 山崎監督の世界」の見どころ

山崎監督といえば、第29回日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など12部門を受賞した映画『ALWAYS 3丁目の夕日』(2005年)、第38回日本アカデミー賞最優秀作品賞など8部門を受賞した『永遠の0』(2003年)など、数多くのVFX映画を世に生み出している国内有数の映画監督のひとりです。

戦後日本や宇宙、黄泉の国、大型戦艦に怪獣や妖怪など、現実にはない風景やキャラクターを高度なビジュアルでデジタル上に表現できるのがVFXの大きな魅力。

この夏から始まった展覧会「映画監督 山崎貴の世界」では、山崎監督がVFX技術を用いて手掛けてきた映画やゲーム映像、ミュージックビデオ映像などの制作の裏側を楽しめるようになっています。

VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー
左上)映画『GHOSTBOOKおばけずかん』(2022年)の古本屋の実物大セット。右上)映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』(2017年)に出てくる妖怪たちの被り物や衣装が大集合。左下)映画『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005~2012年)で使用された、東京の下町をイメージしたミニチュア。右下)映画『STAND BY ME ドラえもん』(2014年)の制作にあたって再現されたのび太の部屋。リアルな影を表現するために、こうしたミニチュアで撮影した映像を合成している。

展覧会では映画制作で実際に使われたセットや衣装、ミニチュアなどの展示を見れるだけでなく、サイネージでVFX映像が作られる過程の映像を観られたり、特設シアター内でこれまでの作品のシーンを繋ぎ合わせたスペシャル映像を観れたり、映画『永遠の0』の撮影で使われた零戦コックピットに座って撮影体験ができたりと、山崎貴ワールドにどっぷり浸れるコンテンツが充実しています。

映画を観た後に展覧会に足を運び、「あのシーンのあれだ!」と感動し、帰ってからまた映画を観て確かめる。そんな無限ループにはまる危険性を孕んでいるのも、この展覧会の特徴です。8月24日には、来場者2万人を記録するという盛況ぶり。いずれにせよ、山崎監督のコアなファンも、「『ALWAYS 3丁目の夕日』は観たことあるけど…」というライトなファンも満足できるエンターテインメント空間になっていますので、ぜひチェックしてみてください!

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左上)山崎監督が展覧会のために描き下ろしたキャラクター「Y-cat」の大型フィギュアが、松本市の中心市街地に登場! 会期中、「まちなか出張展」として松本城や松本駅前、千歳橋に展示されている。右)展覧会の入口には、山崎監督の最新作、映画『ゴジラ-1.0』(2023年11月3日公開予定)のゴジラの大型フィギュアがお出迎え。左下)映画『永遠の0』のセットに座れる「零戦コックピット飛行シーン撮影体験」。公式ウェブサイト上から要予約。

▼映画監督 山崎貴の世界の概要

会期:2023年7月15日(土)〜10月29日(日)
休館日:月曜日(休日の場合は翌平日)
会場:松本市美術館
開館時間:9:00~17:00(入場は16:30まで)
観覧料:大人1,300円、大学高校生900円 ※中学生以下無料。団体割引、障がい者割引あり。
主催:松本市美術館 TSBテレビ信州
特別協力:株式会社 白組
技術協力:セイコーエプソン株式会社
後援:(一社)長野県松本県ヶ丘高等学校同窓会、信濃毎日新聞社、市民タイムス
協力:(一社)松本映画祭プロジェクト
公式HP:www.yamazakitakashi-exhibition.com

“映画の街・松本”を紡ぐエンターテイナーたちと山崎監督

VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー
国宝松本城と、風になびく商店街映画祭ののぼり旗。

山崎監督が長野県松本市出身であること。もちろんこれも、松本市で山崎監督の展覧会が開催されることになった理由の一つですが、開催の実現には、15年間この町で活動している「松本映画祭プロジェクト」との関係も大きかったのです。ここからは、松本映画祭プロジェクトについてご説明しましょう。

▼松本映画祭プロジェクト 公式HP

「映画を通じて松本の街と人を元気にすること」。

こう目的を掲げて活動を続けている松本映画祭プロジェクトですが、その前身は、2007年に設立された「商店街映画祭実行委員会」でした。商店街映画祭は、同年5月に松本市の市政施工100周年をきっかけに立ち上げられた、“松本の商店街”を共通テーマとする映画のコンテストです。

商店街で映画を撮影し、商店街で上映し、その映画を観た人々が映画の舞台となった商店街を訪れる。このように映画を通じて商店街に人を呼び込むことで、地域の活性化に繋げることを目的としていました。全国各地でさまざまな映画祭が開催されていますが、商店街をコンセプトにしていた点が商店街映画祭のユニークなところです。

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商店街映画祭、記念すべき第1回開催時のポスター。山崎監督の代表作『ALWAYS 三丁目の夕日』のオマージュともいえるイラストがメインのビジュアルに。

第3回からは募集を全国に広げ、全国の商店街を舞台にした様々な作品が集まるようになりました。年々作品のクオリティが高まり、出品監督たちとのネットワークも拡大。映画人の裾野を広げるため、グランプリ監督らに講師を依頼して映画制作ワークショップを2回開催したり、グランプリ監督の出身地に出向き「出張!商店街映画祭in郡山」「出張!商店街映画祭in和歌山」などを開催したりする試みも。

加えてこの映画祭の特筆すべきところは、特別審査員陣営の豪華さです。伊丹十三映画の助監督を務めた後、劇場映画・2時間ドラマや連続ドラマ・ネットドラマの監督など多岐にわたり幅広く活動している七高剛監督、まつもと市民芸術館の開館より20年間芸術監督を務め、松本に歌舞伎や演劇文化を根づかせた俳優の串田和美さん、そしてなんといっても山崎監督が初回から第10回まで特別審査員を務めていました。VFXの先駆者であり国内外で活躍する監督が毎年地域の映画祭に関わり続けることは並大抵のことではありません。その根底にはきっと、自身のルーツである故郷への愛着があったはずです。 

2018年11月の第10回をもって商店街映画祭は終了となりましたが、10年の間に多くのアマチュア監督が作品を発表し、なかにはプロとして活動の幅を広げている監督もいます。商店街映画祭の蒔いた種が実り、松本から第2の山崎監督が誕生する日も、そう遠くはないかもしれません。

VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー
2014年2月に開催された、第6回目商店街映画祭の実行委員一同と山崎監督。「映画で松本を元気にしたい」という共通の目的をもち、長年ともに活動してきた仲間たち。

商店街の枠を超えて生まれたムービー・エンターテイメント

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子どもたちの映画祭で生まれた縁から、渡米してPIXERの現地視察を行った松本映画祭プロジェクトのコアメンバー。左から代表の河西徳浩さん、渡辺匡太さん、河西佳代さん、早田和重さん、大野善裕さん。“松本が好き”“映画が好き”という共通項で繋がった、異なる事業を営む経営者の集まりだ。

商店街映画祭実行委員は、2010年にまつもと市民芸術館の小ホールで「商店街子ども映画祭※」を初開催し、大成功を納めます。さらなる広がりを生み出すべく2011年に法人化し、同年に「地球のステージMATSUMOTO」を初開催するなど、商店街とは切り口の異なる映画祭を次々と手掛けていきました。2015年からは、山雅後援会が主催の「マツモトフットボール映画祭」に実行委員として参画。2019年以降は山雅後援会より主催のバトンを受け継いています。

2023年8月現在は、「子どもたちの映画祭」「地球のステージMATSUMOTO」「マツモトフットボール映画祭」という、年間3本の映画祭を開催している松本映画祭プロジェクト。2020年以降のコロナ禍においても、感染拡大対策を講じたり、企画の形を変えたりしながら、できる限り映画祭を続けてきました。松本で生まれたこのエンターテイメントはきっと、松本で暮らす人々の元気や笑顔に繋がっていることでしょう。

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2022年4月30日に開催された「子どもたちの映画祭13」。コロナ禍のなか、たくさんの子どもたちが、会場のまつもと市民芸術館へ大集合! 

※2011年より「まつもと子どもたちの映画祭」、2020年より「子どもたちの映画祭」に改称。

【松本映画祭プロジェクトの主催イベント】

・子どもたちの映画祭(2010年~)

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2022年開催時のテーマは「ハッピーハルウィン」。会場は、映画のヒーロー・ヒロインの仮装をした子どもたちの笑顔に溢れていた。

・地球のステージMATSUMOTO(2011年~)

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紛争・災害地域等で医療支援や子どもたちの心のケアを行っている医師、桑山紀彦氏がナビゲーターを務めるライブステージ。桑山医師自らが現地で出会った人々の姿を、オリジナルソングとハイビジョン映画で観客に伝えている。

・マツモトフットボール映画祭(2019年~) ※2015年~2018年は実行委員として参画。

VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー
2022年1月10日、地域のプロサッカーチームである松本山雅の新体制発表会と同時開催で行われた「第7回マツモトフットボール映画祭」。ディエゴ・マラドーナのドキュメンタリー映画の上映や新体制発表会のライブビューイング、名波浩監督とクラブプロモーション担当の片山真人さんのトークショーが行われた。

松本に根付く映画カルチャーを紡ぐために

VFX映画の裏側を体感できる展覧会「映画監督 山崎貴の世界」観覧レポートと開催に至る15年のストーリー
縄手通りの中心部に建つ写真左手のマンションは、かつて“中劇”という愛称で親しまれていた映画館「松本中央劇場」だった。ファンに惜しまれながらも、2004年に閉館。

「今はなくなってしまったけど、昔は松本の街中には映画館が7館くらいありました。私はよく、中劇で映画を観ていましたね。映画館で『E.T.』や『キングコング』観たときの衝撃は、いまも記憶に残っています」

松本映画祭プロジェクトのメンバーであり、中劇のすぐ横にCAFE SWEET縄手本店を構える株式会社スヰトの社長、渡辺匡太さんは、幼少期をそう振り返ります。プロジェクトの代表である河西徳浩さんも松本市出身で、幼いころから日常で映画を観る機会が多くあったと教えてくれました。山崎監督も、そうした環境に恵まれていた松本市で生まれ育った大人のひとり。松本映画祭プロジェクトのメンバー同様、映画館で感動を味わい、映像を通して本物の芸術により多く触れ合えた経験が、世界に誇るエンターテイメントを生み出し続ける原動力になっているのではないでしょうか。

商店街映画祭で山崎監督と縁を深めてきた松本映画祭プロジェクトは、2018年11月、商店街映画祭の第10回を記念して「白組・山崎貴監督ギャラリー」を信毎メディアガーデンにて開催しました。5日間という期間限定で、山崎監督の映画作品の絵コンテ・台本・ミニチュアなどを展示。このギャラリーの実現を契機に「松本として世界の山崎監督をもっと大々的に盛り上げていこう」という機運が高まるなか、松本映画祭プロジェクトによる働きかけで、松本市美術館・テレビ信州主催による3か月以上に及ぶ展覧会が実現したわけです。

人々を元気にする松本発のムービー・エンターテイメント。展覧会「映画監督 山崎貴の世界」の開催によってさらに広がり、未来へ紡がれていくことでしょう。

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この記事を書いた人

松元麻希

昭和生まれ、平成育ち。スキー好きが高じて、2017年に千葉から松本市へ移住し、2019年より伊那市在住。スキーのほか、音楽と新鮮野菜とパン、バスケットボール観戦をこよなく愛する。