長野県は蝶の宝庫! ~信州で蝶を探そう~

長野県の蝶

※当サイトのコンテンツにはプロモーション(広告)が含まれています

こんにちは、syakugaです。今回は、要望の多かった長野県の蝶についての特集です!身近なところで蝶を探したいという方から、蝶を通じて長野県の自然環境を知りたいという方まで、写真を見ながら楽しんで読んでいただければ幸いです。

まずは、長野県の蝶類についてどのような特徴があるのかを見ていきましょう。

長野県の蝶の特徴3つ

特徴1:長野県は最も蝶の種数が多い都道府県

日本にはおよそ250種の蝶類が生息しているといわれていますが、長野県ではそのうち約150種が確認されており、この種数は全都道府県の中で最多とされています。少し古い本ですが、1996年に発行された『信州の蝶』には長野県が149種、次いで岐阜県が145種、新潟県が144種・・・と書かれています。この本の発行以降、数十年記録がなく絶滅したと考えられる種がいる一方で、むしろこれまで確認されていなかった種も記録されており、現在見られるのは150種ぐらいといってよいでしょう。

クジャクチョウ(2020年9月 大町市)

特徴2:寒冷地の蝶から暖地の蝶まで幅広く生息

長野県は本州のほぼ中央に位置しており、かつ南北に長い県です。南北の直線距離がおよそ210kmと、北端と南端では緯度にしておよそ2°も違います。そして県内の標高差は約3000m。最低標高地点の小谷村(約170m)をはじめとした県境付近の河川沿いは標高が低く、かつ最高標高地点の奥穂高岳(約3190m)を筆頭に3000m級の山脈が連なっています。

大糸線から見た長野県最低標高地点
標高3180mの槍ヶ岳

このような地理的条件とそれによる気候の多様さによって長野県は多くの蝶の生息地となっています。高山帯のような極めて寒冷な気候を好むいわゆる「高山蝶」が9種いるほか、比較的冷涼な気候を好む蝶が多い中で、近年ではツマグロヒョウモンやクロコノマチョウなど南方系の蝶が数多く見られるようになりました。

高山蝶として知られるクモマツマキチョウ(2013年6月 大町市)
今世紀に入り普通種となった南方系のツマグロヒョウモン(2016年10月 池田町)
主に南部で見られるようになったクロコノマチョウ(2014年8月 飯田市)

特徴3:多様な環境が揃っている

地理的条件や気候に加えて、実は人々の生活こそが多様な環境を生み出してきました。例えば長野県の各所には草原が広がっていますが、これは人間が生み出した景色であり、採草、放牧、野焼きのような人の営みなしには維持できないものです。現に、人間の活動が活発化し草原の面積が拡がった縄文時代中後期に草原性の蝶の一種コヒョウモンモドキの個体数が増加した、という研究もあります。

薪を得るために間伐、枝打ちなどの整備がされた明るい雑木林も、多くの種類の動植物が生息する絶好の場所になります。このような人的要因も加わって、長野県は生物多様性が高くなっており、蝶の種数が多いことはこのことをわかりやすく示してくれています。

草原を棲家とするコヒョウモンモドキ(2019年7月)

つづいて、県内のさまざまな環境と照らし合わせながらどのような蝶が棲んでいるのかを見ていきましょう!

いろいろな環境に棲む蝶たち

1:高山帯

ハイマツがまばらに生える蝶ヶ岳の二重稜線(2020年)

高山帯は主に森林限界以上のエリア、長野県ではおよそ標高2500m以上の部分に相当します。ここでは主に「高山蝶」と呼ばれる蝶や飛翔力の強い蝶が見られます。「高山蝶」には氷河期の生き残り(遺存種)が生息しており、その代表がタカネヒカゲです(実は筆者はまだ出会ったことがありません!)。高山蝶の多くは天然記念物に指定されており、採集が禁じられるなど保全策が講じられています。

人懐こいベニヒカゲ(2020年8月 安曇野市)
タカネキマダラセセリ(2012年7月 松本市)
オオイチモンジ(2011年7月 松本市)

2:草原・湿地帯

約半世紀前まで身近な存在であったという草原は、人々が生活に利用しなくなったこともあり規模が縮小しています。それでも霧ヶ峰高原に代表される県内各地の高原やスキー場は管理が行われていてさまざまな蝶の棲家になっています。絶滅した蝶、絶滅の危機に瀕している蝶のほとんどは明るい草地を好む草原性の蝶であるといわれています。

蝶が多産する白樺高原(2020年7月)
高原に棲まうミヤマシロチョウ(2014年7月 湯の丸高原)
深刻に数を減らしているチャマダラセセリ(2012年5月 木曽町)
地区をあげて保全が進められているゴマシジミ(2019年8月 松本市)

3:森林・雑木林

典型的な人工の雑木林(2016年8月)

長野県の面積の約8割を占める森林も人間の営みと関わりながら多様な形態を取っています。県北部にはブナ林が多いほか、雑木林にはコナラやミズナラ、カラマツがよくみられ、痩せた土地にはアカマツ林が広がっています。また戦後の拡大造林にともなって植えられたスギやヒノキの針葉樹林もよく目立ちます。

蝶類の幼虫には針葉樹の葉を食べるものが少なく、特に森林の蝶類の多くはブナ科の植物を餌とします。また、ヒメギフチョウなど林床に成育する草を食べる種類もおり、日光が林内に届く明るい広葉樹林にたくさんの蝶類がみられる傾向にあります

雑木林の縁で縄張りを張るジョウザンミドリシジミ(2019年7月 白馬村)
林床のウスバサイシンに産卵するヒメギフチョウ(2009年4月 県北部)

4:河畔

押野崎(2015年8月)

かつて人々の暮らしが山とともにあったのならば、近年は河川とともにあるといえるでしょう。戦後、多くの人々が山村を離れて平地へと移り住んだからです。整備された堤防によって河川の近くまで街や住宅街が広がったため、長野県民にとっても山より川のほうが身近な自然なのではないでしょうか。

そんな河川の脇は河畔と呼ばれ、散策路や公園、ゴルフ場などとして整備されているところも多いです。人間による定期的な管理が行われる上、大雨の際には流失するなど動植物にとってサバイバル要素の強いエリアでもあります。山では見かけないミヤマシジミやヤナギを食樹とするコムラサキなど、河畔ならではの蝶類も何種類か生息しています

河畔に生息するミヤマシジミ(2020年10月 大町市)
食草のツメレンゲで吸蜜するクロツバメシジミ(2013年9月 池田町)
ヤナギの周囲を生活圏とするコムラサキ(2019年7月 松本市)

5:平野・住宅街

田園の畦を舞うジャコウアゲハ(2016年8月 池田町)

お庭の蝶として、モンキチョウやモンシロチョウ、アゲハなどがあげられます。これらは自然度の低い環境に適応していたり、庭の雑草を餌とすることなどからよく見られます。

春から秋にかけて身近に見ることのできる蝶たち
①キアゲハ ②アゲハ ③モンキチョウ ④モンシロチョウ ⑤ベニシジミ ⑥ツバメシジミ ⑦ヤマトシジミ

とりわけ庭先の蝶が目立つのは晩夏から秋にかけてで、赤系橙系の花を植えると南方系のツマグロヒョウモン、ヒメアカタテハ、ウラナミシジミなどがよく飛んできます。この3種のうち、ツマグロヒョウモンは近年長野県で冬越しできるようになりましたが、残りの2種はまだ越冬困難だといわれています。それでも毎年、太平洋岸から北へ北へと飛んでくるのです。なんと健気なのでしょうか。

長野県では冬越しできないウラナミシジミ(2019年11月 安曇野市)

信州で蝶を見るならここに行こう!オススメスポット3選

ここまで見てきたように、蝶は自分に合った環境を選んで生息しているといえます。そのため、特定の種類にこだわらないのならばどこにいっても蝶を見ることができます。とはいえ、最初は身近な自然の多いところで蝶を探すのが楽しいのではないかと思うので、近場の公園での自然観察がオススメです。筆者のフィールドである中信には蝶を探すのに絶好の公園がいくつかあるので、その一部をご紹介します。ぜひ友人や恋人と蝶探しに出かけましょう!

1:アルプスあづみ野公園(堀金・穂高地区)

アルプスあづみ野公園の堀金・穂高地区では、国と県が絶滅危惧種に指定したオオルリシジミの保全が行われており、5月下旬から6月上旬の発生期にその姿を見ることができます(たった3週間程度の短い命です)。身近に見られるヤマトシジミよりも一回り大きく迫力があります。発生期には観察会が行われるので、時期が近くなったらぜひ公園のHPをチェックしてみてくださいね。もちろん、見られるのはオオルリシジミだけではありません。蝶が集まりやすい草地と森林の境界部に位置しており、春から秋にかけてさまざまな蝶を見ることができます。

オオルリシジミの食草クララが池のほとりに植えられている(2012年)
食草のクララにとまって翅を休める(2019年)
求愛(上が雌、下が雄 2019年)
オオルリシジミと同時期に羽化するウラギンヒョウモンもよく飛んでいるk(2020年)

2:松本市アルプス公園

松本市街地からほど近いアルプス公園は、桜や展望台、博物館にコースターと見どころ満載ですが、生物多様性の高さも申し分ありません。特に6月から7月にかけての蝶が最も多い季節は、たくさんの種類が一度に姿を表すので、私も時間ができるとついつい遊びに行ってしまいます(笑)。アルプス公園内「山と自然博物館」による蝶の観察会が行われることがあるので、これも要チェックです。

集団吸水するオオムラサキ 稀ではあるが、当たり年にはこの光景を見ることも夢ではない(2019年)
日本固有種のウラキンシジミ(2012年)

3:フジバカマ畑(宮田村、大町市など県内各地)

渡りの蝶として知られるアサギマダラは、冬を温暖な西南日本で過ごし、長野県に戻るのは5月頃です。次の世代は7月頃に出現しますが、羽化するやいなや避暑のために標高の高いところへ逃げ、涼しくなった9月頃に再び降りてきて、南へと渡っていきます。他の日本産の蝶類にはない奇妙な生態です。ともあれ、人里近くで最も観察しやすいのは9月で、秋の七草であるフジバカマの花を好んで訪れます

県内各地で、アサギマダラを呼ぶためにフジバカマを植える取り組みが行われています。宮田村の「アサギマダラの里」や大町市の「のっぺ山荘」は有名で、例年アサギマダラがやってくると新聞やSNSなどに取り上げられます。

フジバカマ畑を訪れたアサギマダラ(2020年9月 大町市)
行きつけのカフェで見つけた宮田村・マルス信州蒸留所の「MARS WHISKY 浅葱斑(あさぎまだら)」

長野県は蝶の宝庫! ~信州で蝶を探そう~まとめ

長野県にはどんな蝶が生息しているのか、簡単に紹介してきました。わざわざ山奥に行かなくてもたくさんの蝶を見ることができます。まずはお庭から、そしていつものお散歩コースや公園で、季節の変化を楽しみながら蝶を探してみましょう!

公式LINEの友達募集広告

この記事を書いた人

宮田 紀英

長野県池田町で蝶と蛾を中心とした自然写真の撮影を行っています。毎夏蝶の写真展を開催、フリーペーパー「いけだいろ」では自然に関する記事を執筆中。最近は山村集落探索や神社巡りも趣味。日本自然写真科学協会(SSP)会員、長野県地理学会、松本むしの会等所属。