松本城のお堀を大きく分けると、3つあることに気づくでしょうか。
ひとつはお城をぐるっと囲む内堀。もうひとつは二の丸を囲む外堀。3つ目がいちばん分かりづらく、深志橋の下を通る総堀です。内堀や外堀に比べ、総堀はきれいに埋め立てられて痕跡を見つけるのが難しい。
しかし歩いてみると町名や地形など、随所にその面影を感じることができます。
今回のスキマ旅テーマは「総堀跡」。
松本城の総堀跡をぐるっと一周して、その痕跡を探してみよう!
▼松本城のお堀マップ
『享保13年(1728)秋改松本城下絵図』による城郭と城下町の復元図(平成16年の都市計画図に重ねてある)。
濃い青色は現存する場所、水色は古図に描かれた部分です。今回は現存する総堀からスタートし、古図を頼りにぐるっと一周してみました。
松本城をおさらいしよう
松本城は1936(昭和11)年に国宝に指定されました。
松本城の前身は戦国時代(1504年頃)、あたりを支配した小笠原氏によって築城されました。当時は山城であった林城の支城であり、「深志城」と呼ばれていました。さらに天守のある石垣造の近世城郭に改築したのは、石川数正・康長父子。長野県で最初に国宝指定されました。姫路城や犬山城らと同じく、天守の現存する五城のひとつです。さらに日本100名城のひとつとしても知られています。
松本市役所東庁舎裏に残る総堀からスタート!
現存する総堀は、松本市役所東庁舎の裏側にあります。
明治に入って総堀がどんどんと埋め立てられる中、唯一残されたことはまさに奇跡!総堀は深志橋の南側から北門大井戸まで続きます。
深志橋の南側に片端町(かたはちょう)があります。
松本城下町を整備した際、総堀の東側だけ屋敷割された武家屋敷地帯につけられたお名前です。現在は大正昭和期に建てられた洋風な建物(医院など)が立ち並んでいます。
北門大井戸にもお堀の名残がうかがえる
総堀跡の曲がり角、現在ある総堀の終点までやってきました。車道よりガクンと下がった場所は空き地と公園になっており、敷地内には北門大井戸があります。
パッと見て総堀の名残がうかがえますが、井戸ができたのは総堀を埋め立てた後でした。元々お堀の水は湧水であふれていたため、北門の馬出し跡に水が湧き出てきたのです。
以来「北門大井戸」は庶民の井戸として、今でも地元の方々に活用されています。
北馬場柳の井戸
北門大井戸からまっすぐ西へ進むと、左側へ少しおりたところに北馬場柳の井戸が見えてきます。こちらも総堀の跡地にあり、埋め立てた後に湧き出でた井戸。かたわらに柳の大木があることから、北馬場柳の井戸と呼ばれているそうです。
馬場とは馬の訓練をしていた場所を指します。松本城のまわりには柳の馬場(市役所の東の通り)、葵(あおい)の馬場(松本神社の南の通り)と、この北馬場(きたばば)がありました。
お隣には駐車場もあり、しっかりと整備されている印象。駐車場の奥には土が盛り上がっており、土塁の名残があります。
松本神社を裏から眺める
さらに西に進むと、松本神社の裏側に辿り着きました。
古地図と重ねてみると、松本神社の前身である暘谷(ようこく)大明神は現在より敷地が狭かったようです。上の写真で見えている場所は、総堀にあたる部分。
そのお隣には馬出しと、北不明門跡があります。
さらにその先の通りは鷹匠町と呼ばれていました。お名前の通り、鷹匠が住んでいた場所のようです。
タカやハヤブサなどを訓練し、獲物を捕らえさせる伝統的な猟法です。鷹狩りの歴史は古く、日本では古墳時代には普及しており、戦国時代以降は位の高い武士のたしなみとされてきました。松本の藩主もまた鷹狩りを愛好し、鷹狩りに用いる鷹を飼育・調教する「鷹匠」を仕えさせていました。
松本城西へのカーブも総堀の名残
鷹匠町をさらに進むと、大きめのカーブにさしかかりました。この辺りも鷹匠町の一部ですが、左側は総堀だった場所になります。
ここから南下して、西側の総堀跡を歩いていきます。
西堀公園井戸から六九へ
西の総堀跡の角は、現在西堀公園となっています。
総堀の外側は今も昔も六九という地名になっており、武家屋敷が並んでいました。地名「六九」は、54頭の馬を飼育した六九厩があったことに由来します。
六九は総堀よりも少し西側から始まり、なわて通りや四柱神社の前まで続いています。古地図によると女鳥羽川沿いは昔、蔵が並んでいたようです。女鳥羽川は蔵の南側を流れ、天然の要塞の役割を果たしていました。
大名町から枡形跡を通り四柱神社へ
六九商店街を抜けて大きな大名町へ出てきました。この辺りにはかつて枡形があり、大手門の手前で敵の侵入を防ぐ役割を担っていたと考えられます。
その奥にはまた総堀が掘られていたため、現在の四柱神社は埋め立てた後に鎮座したもの。手前の広場は現在枡形跡広場と呼ばれています。
千歳橋からやや不自然にグネッと曲がった「千歳橋」の信号前。広場横の鳥居を抜けると四柱神社に辿り着きますが、この辺りは明治時代になって埋め立てられました。なわて通りのあたりは土手のようになっており、商店街名「なわて」の由来がうかがえます。
総堀より内側の土手通りにも名残が!
総堀跡をめぐる前に、ひとつ内側にある土手小路も見ておきましょう。
現在松本市立博物館が建てられている通りにあり、老舗の百老亭がある側にあった土手から名付けられた江戸時代の地名です。お堀を掘った時に出た土を盛り上げて土手のようにしていたとのこと。
百老亭を見てみると、女鳥羽川沿いに向かってやや低くなっているような地形を感じ取ることができました。
辰巳のお庭ってなんだ?
総堀跡を辿って四柱神社を東へ進むと、辰巳の庭という場所にたどり着きます。
ここは総堀のひとつ内側にあたり、江戸時代には旧松本藩の「辰巳御殿」の一部だった場所です。松本藩最後の藩主である九代・戸田光則(とだみつひさ)の父、光庸(みつつね)の住居として建てられました。
現在は細長い広場に井戸から小川が流れ、小さな子どもたちも遊べる憩いのスペースとなっています。
辰巳の御庭を横目に総堀の痕跡を探るため、ナワテ横丁へ入っていきましょう。小径好きは好きな方も多いスポットではないでしょうか!テンションが上がってきますね。
ここからさらに楽しくなります。
ナワテ横丁は総堀の跡と重なっており、女鳥羽川に向かって今でも水が流れています。暗渠から水路が顔を出し、たまに鯉が泳いでいるのが見えますよ。
北へ進むと行き止まりかと思いきや、車も通れない細い道が続いています。
ナワテ横丁から小径を使って北上すると、なだらかに西に傾斜した通りに出ます。さらにまっすぐ進むと小さな「外濠小径」の石看板の先に自転車ですら通りぬけ不可能な道が見えてきました。
ここは「総堀」の跡でなぜ「外濠小径」なのかは不明ですが、この下も暗渠になっています。右側はもともと土手になっていたため、今でも左右でかなり高低差があります。
5分ほど北上を続けると階段があり、松本ホテル花月まで出ることができます。この道は江戸時代東門と馬出しがあった場所。現在は東門の井戸が整備されています。
古地図をみると、東門にあった馬出しは4つある松本城の馬出しのうち最大。周りを囲むように総堀が掘られていました。
そんな東門の井戸の南側に上土町(あげつちまち)があります。総堀を掘る際に土を盛った場所を揚土と呼んだことに由来しており、武家屋敷や牢獄、蔵などが立ち並んでいました。1913(大正2)年から1959(昭和34)年までは松本市役所の庁舎もあり、行政の中心地としても賑わった場所。ゆるく湾曲したようにのびた通りには、白鳥写真館や上土劇場(元ピカデリーホール)など昭和時代までの面影を感じさせる景観が残っています。
松本城の総堀跡一周!
上土通りを北上すると、スタートした総堀跡に戻ってきました。
かき船の南側にもわずかにお堀の水が残っています。やや寄り道もしましたが、総堀を一周するだけなら1時間くらいで巡れそうです。
最後に現松本市役所東庁舎前の柳町を紹介しておきましょう。
この辺りはさらに昔は「泥町」と呼ばれていましたが、町割をする際に武家屋敷が置かれ、柳の木が植えられたことから「柳町」と呼ばれるようになったそうです。古地図には「柳馬場」と書かれていました。
松本城の周りには、お城に関する地名であふれていることが分かります。今回は総堀をメインにまわりましたが、ほかのテーマを見つけてまち歩きを楽しむのも良いかもしれません。
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