「御神渡り」の伝説とは?諏訪の歴史を紐解きながら絶景を眺める

※当サイトのコンテンツにはプロモーション(広告)が含まれています

こんにちは。地元の話になると呼ばれなくても飛び出したくなる、おざわっぷる(@naganozawapple)です。職場では我慢しています。

そんな僕が今回ご紹介するのは、我が地元が誇る神秘の絶景「御神渡り(おみわたり)」です。冬に諏訪湖に出現する氷の筋のことで、2018年にはSNSの普及も相まって空前のブームになりました。ですが、ただの珍しい絶景ではありません。ここでは御神渡りを入口に、諏訪の歴史も掘ってみます。

御神渡りには「諏訪大社の神様が通った道」という神話があります。その物語は八ヶ岳を越えます。また、御神渡りに関する神事を執り行う神社には、諏訪の浮城・高島城の築城の際に現在地へ遷座されたという歴史があります。実は元々、神社のあった場所に城が築かれたのです。

今度御神渡りが出現した折には、鑑賞スポットも押さえつつ諏訪の歴史も偲んで、絶景を何倍も深く味わってみませんか?

御神渡り=「神」の「渡」る道

真冬に諏訪湖が全面結氷し、最低気温が-10℃前後の日が続くと、氷の収縮と膨張が繰り返されて亀裂が生じ「御神渡り」が出現すると言われています。まるで山脈のように連なる氷のせり上がりは、高さが30cm~180cmほど(諏訪市博物館ウェブサイト参照)。

2006年1月 Ⓒ諏訪市

この神秘的な自然現象には「諏訪大社の上社の男神が下社の女神に会いに行った」という伝説が古くから言い伝えられています。

2018年2月 撮影:じょー様(@t_joe_san)

諏訪大社は大きく分けて2つ、諏訪湖を挟んで南側に上社(かみしゃ)と北側に下社(しもしゃ)があります。

伝説では、上社の男神(建御名方神:タケミナカタノカミ。諏訪明神とも)が、下社にいる女神(八坂刀売神:ヤサカトメノカミ)に「夜な夜な会いに行く時に凍った諏訪湖を歩いた」とか、「夜明け前に帰る時に急いで氷上を走ったため轟音とともに亀裂が出来た」などといった、様々な伝わり方があります。いずれにせよ「男神の通い路」という点は共通認識です。

おざわっぷる
大胆かつロマンチック。

「御神渡り」おすすめ鑑賞スポット

画像提供:下諏訪観光協会

2018年2月2日時点では、およそ上図のように御神渡りが出現しました。ただし、出現後の一部消滅、成長、位置変動、新たな筋の出現なども起こり得ます。したがって、2018年撮影の画像であっても、記事中の画像が上図と位置が一致しない場合もあることをご了承ください。しかしながら、出現する場所は大体近いことが多いようです。

2018年2月 撮影:しおこー様(@Salt_Island_)

とは言え、湖周の道はほとんどが日常的に交通量が多く、2018年の空前の御神渡りブーム時は大混雑でした。駐車場や駅からのアクセスも重要な問題です。それらも踏まえて、比較的わかりやすくて有名なスポットをご紹介いたします。

※御神渡りは完全には解明されていない自然現象です。今後、必ずしも上図に記された位置の近辺に出来るとは限らないことをご承知おきいただいた上で、参考にしていただければ幸いです。

赤砂崎周辺

まずおすすめしたいのがこちら、下諏訪町の赤砂崎周辺です。2018年の御神渡りでは「一之御渡」が目の前スレスレを横切り、右を向いても左を向いても御神渡りというパノラマの眺めが見られました。

2018年2月 撮影:筆者

南側半分が見事に開けているので、晴れた日は日当たりも良好です。

2018年2月 撮影:筆者

天気が良ければ諏訪湖越しに富士山も望める、普段から人気の諏訪湖眺望スポットです。

駐車場は、赤砂崎公園の多目的グラウンドに普通車82台の無料駐車場があるほか、近くの他の公園なども含め、大小多数の駐車場があります。電車&徒歩の場合は、下諏訪駅からほぼ一直線に南下します。役場の前を通り、徒歩20分ほどで到着します。

諏訪湖間欠泉センター付近

諏訪市にある諏訪湖間欠泉センターも、目印としておすすめのスポットです。2018年には「佐久之御渡」に比較的近かった観光施設です。

おざわっぷる
足湯+諏訪湖ビューもおすすめ。

駐車場は、普通車50台の無料駐車場があります。他にも、この近辺には駐車場が道路に沿ってかなり長く設けられていますが、日常的に混んでいるのでご注意ください。

電車&徒歩の場合は、上諏訪駅から徒歩15分ほどで到着します。

他にも観光施設や公園を中心に、駐車場は大小多数ありますが、御神渡りが出現したらどこも満車になってもおかしくありません。やや離れた駐車場に停めてから歩くことも想定してください。臨時駐車場などの情報もチェックすることをおすすめします。

立石公園

諏訪市の立石公園は、文句なしの諏訪湖ビューの高台代表です。映画『君の名は。』のブームもあり、展望台は今や日常的に賑わっています。駐車場が普通車25台と少ないのが難点ですが、御神渡りの全容が一望できる眺めは一見の価値ありでしょう。

2018年1月 御神渡り出現前 Ⓒ諏訪市

頑張る人は、上諏訪駅から徒歩30分ほどで登ることも可能です。登り切れなくても、景色が開いた場所からは御神渡りが見えるかもしれませんね。

ハーモ美術館

諏訪湖の周りには美術館・博物館も豊富にあります。その中には、諏訪湖ビューが素晴らしい施設もいくつかあります。

赤砂崎のやや東にある美術館。見事な諏訪湖+富士山ビューを、展示室の大きなガラス窓から眺められます。2018年は「一之御渡」を間近に見られたことでしょう。

下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館

こちらも館内から諏訪湖を広く眺められます。2018年は「一之御渡」の北側の端が近くにありました。館内ではその名の通り、諏訪湖の郷土史などを学習できます。

2018年2月 一之御渡が横切る 撮影:筆者

SUWAガラスの里

国内最大のガラスショップに、現代ガラス工芸の美術館や体験工房などが併設されています。レストランは一面諏訪湖ビュー、2018年は「一之御渡」が近かったです。

2018年2月 近くの岡谷市湊より 撮影:おいでよ松川町様(@oide_matukawa)
おざわっぷる
持論 “美術館×風景=あなたが見つける作品”。

高速道路を降りずに温泉から眺める

諏訪市と岡谷市にまたがる、中央自動車道の諏訪湖サービスエリアには、上下線とも全国初のサービスエリア内日帰り温泉施設があります。

「高速道路を降りずに諏訪湖を一望できる温泉」というのが最大の特徴。標高が諏訪湖の湖面から60mほど高く、しかも諏訪湖の南端の、ちょうど扇の要のようなポイントに位置しています。一之御渡の南側が比較的近くに眺められることと想像されます。これもまた、御神渡りの贅沢な楽しみ方の1つでしょう。

おざわっぷる
地元のサービスエリアって、地元住民こそなかなか行かないかもしれないですね!

高ボッチ高原

2018年2月 撮影:しおこー様(@Salt_Island_)

諏訪盆地、八ヶ岳、富士山などを一望できることで有名な撮影スポット、岡谷市と塩尻市にまたがる高ボッチ高原からの眺めがこちらです。冬季期間は道路が通行止めになるので、頑張る方々は歩いて山を登ります。

おざわっぷる
冬山登山…くれぐれも気をつけて!

まぎらわしい「御神渡り用語」の読み方

ここで改めて、御神渡りならではの言葉をちょっと整理してみましょう。

御神渡り

「御神渡り」と書いて「おみわたり」と読みます。

何を今さら?と思う方も多いかと思いますが、信州人でも馴染みの薄い方は「おかみわたり」と読んでしまうこともあります。「おみわたり」、改めて覚えてくださいね。

おざわっぷる
ちなみにイントネーションは「お↓み↑わ↑た↑り↑」。「お」だけ低くてあとは同じです!

そして悲しいことに、「おみわたり」と打っても僕のPCやスマホでは「御神渡り」が変換候補に出て来ないのです。仕方なく、いつも「おかみわたり」と打っています…もちろん今もです。広辞苑にも載っているのですけどね…(笑)

是非ともみなさま今一度、読みは「おみわたり」、漢字は(おかみわたり→)御神渡り」と覚えてください。

御渡

「御渡」と書いて「みわたり」と読みます。

氷の筋の名称は正式には「御渡」と表記され、出来た順に「一之御渡」「二之御渡」と呼ばれます。通常「一之御渡」が一番長いです。これら2本が南北方向なのに対し、東西方向に「佐久之御渡」と呼ばれる氷の筋が出来ます。

画像提供:下諏訪観光協会

そして、「御渡」と書いて「みわたり」と読みます。「おわたり」ではありません。

「御神渡り」「おみわたり」

「御渡」「みわたり」

漢字表記が特にややこしいですが、読みは“みわたり”をセットで覚えれば間違いにくいでしょう。

おざわっぷる
「ごはっと」と読むのは御法度ですからね!(笑)

御渡神事

毎年お正月を過ぎた「小寒」の頃から、今年は御神渡りが出来るだろうかと巷もソワソワしてきます。しかし「氷の筋が出来たらこれ即ち御神渡り」と、早合点してはいけません。正式に認定する神事が執り行われて初めて、「御神渡りの出現」が認められます。この特殊神事は「御渡神事(みわたりしんじ)」と呼ばれます。

2018年2月 認定前 撮影:しおこー様(@Salt_Island_)

ちなみに、御神渡りと認められる氷の筋が現れなかった年には「明けの海」と認定されます。

2017年2月 結氷もせず 明けの海 撮影:筆者

2018年には2月2日(金)に出現が発表され、5日(月)に拝観式などの神事が執り行われました。2019年は残念ながら2季連続出現とはならず「明けの海」となってしまいましたが、さて来季はどうなることでしょうか。

おざわっぷる
寒いぃ…でもやっぱり御神渡りを期待しちゃうのが諏訪人の性。

諏訪湖畔から遷座された神社のお話

御神渡りにまつわる伝説に登場するのは諏訪大社の神様です。しかし、御神渡り出現の認定を含む「御渡神事」を執り行うのは諏訪大社ではなく、諏訪大社上社の摂社の1つである「八劔神社(やつるぎじんじゃ)」という神社です。

撮影:信州さーもん様(@goshumemo)

例年、八劔神社の宮司を代表とする神職などの方々が、諏訪湖の氷の様子を観察、検分します。それに基づき、氷の亀裂が正式に御神渡りと認定されると、氷上にて拝観式が行われます。その後、神社にて御神渡りの状況などが記録され、諏訪大社の神前に奉告されます。

八劔神社は、現在は諏訪市小和田(こわた)にありますが、以前は現在の高島城のある場所に鎮座していました。

八劔神社を含む小和田地区は、高島城から徒歩15分ほどの位置にあります。

高島城と言えば「諏訪の浮城」の呼び名でも知られる、日本三大湖城のひとつ。築城当時は城郭が諏訪湖に突き出ていました。そこに元々八劔神社があったということは、八劔神社が諏訪湖に面していたということ。恐らくは諏訪湖を一望出来たことでしょう。もちろん御神渡りも。

2017年1月 天守入口より諏訪湖方面 現代の眺め 撮影:筆者

高島城の築城が始められたのは、戦国末期の1592年のこと。天下統一を果たした豊臣秀吉が朝鮮出兵をした年です。一方、最も古い御渡神事の公式記録として、室町前期の1397年のものがあります。京の都に北山文化が花開き、足利義満が金閣を建てた年です。つまり、八劔神社が諏訪湖畔から現在の地に遷座する、少なくとも約200年も前から、神事が執り行われていたことになります。それ以前の鎌倉時代や平安時代にも、御渡神事はあったとされています。

その後、江戸時代に入り、高島城を居城とした高島藩の諏訪氏が、元々その地にあり築城のため遷座された八劔神社を「居城鎮護の神」として崇敬したといいます。また、神社と一緒に居を移すことになった村人たちに、諏訪湖の漁業権を与えるなどしたそうです。

これは浅い推測に過ぎないのですが、以上のような、諏訪大社、諏訪湖、諏訪氏との強い関係があったからこそ、八劔神社が今日まで御渡神事を任されているのでは、と想像されます。もしかしたら見当違いかもしれませんが、こんな話があったらドラマチックだなぁと、ロマンを感じます。

八ヶ岳を越える親子神話

新海三社神社(佐久市)。撮影:信州さーもん様(@goshumemo)

諏訪湖から見て八ヶ岳の向こう側、佐久市に「新海三社神社(しんかいさんしゃじんじゃ)」という神社があります。祀られている神様は興波岐命(オキハギノミコト:建御名方神の子)、建御名方命(=建御名方神:諏訪大社の男神)、事代主命(建御名方神の兄)の3柱で、神紋は梶の葉です。梶の葉と言えば諏訪大社ですが、まったく同じ紋ではなく、神社の名前にも「諏訪」の文字はありません。しかしながら、御神渡りを語る上で大事なピースを握っています。

御神渡りは「諏訪大社の男神が女神に会いに行った道」でした。上社と下社を結ぶように、南北に2本、順に「一之御渡」「二之御渡」…

と、この伝説では触れられていない氷の筋があることに、もうお気づきでしょうか。1本だけ向きが東西の「佐久之御渡」です。これは「興波岐命が父である建御名方命に会いに諏訪湖を通った道筋」とされています。

ちなみに新海三社神社は「佐久」という地名とも大きく関わっています。詳しくは信州さーもん様(@goshumemo)のこちらの記事をご参照ください。

おざわっぷる
御神渡りは「氷上の家族会議」だったりして(笑)

※飾りじゃないのよ赤い旗※

2017年1月 撮影:筆者

冬季の諏訪湖畔では、所々に赤い旗が見かけられます。澄んだ冬空や雪化粧した山々、そして凍った湖にもよく映えるアイテム…ですが、そんな理由で置かれているものでは断じてありません。これは、訪れる皆様へのメッセージです。

氷上には決して立ち入らないでください。

2018年2月 撮影:筆者

旗がくくりつけられている看板には、このように書かれています。

危険 諏訪湖の氷は、厚さや強さにムラがあり大変危険ですので、乗らないようにお願いします。

諏訪地区観光客安全対策推進会議

2018年2月 撮影:筆者

港の桟橋からは御神渡りが至近で眺められそうですが、桟橋の入口が看板とチェーンでふさがれていました。

このように書かれた看板もあります。

諏訪湖は、各所に釜穴が散在し、氷の厚さ、強さにもムラがあり、結氷状況も変化しやすいため、氷上への立入りは危険です。

諏訪地区観光客安全対策推進会議

「釜穴」とは、湖底から温泉が湧く穴のことです。

御神渡りの拝観式は、八劔神社の宮司さんたちが諏訪湖の氷上に立ち入って執り行われます。しかし、このことは一般の人々が乗っても安全ということでは決してありません。

割れて落ちてしまった時、氷の下の水の温度は0℃です。

2018年2月、御神渡りが全国的に話題になるのは嬉しかったですが、氷上への立ち入りや割れた氷からの落下事故、またそれらに対する非難や注意喚起のメッセージもSNSで異様なほど多発したことは、悲しかったです。

おざわっぷる
本当に怖いので、絶対にやめてください。

戦前は陸軍の訓練で諏訪湖の氷上を戦車が走り、飛行機が離着陸したといいます。近年よりもずっと大きな御神渡りを、軍人たちは間近で眺めていたのかもしれません。そんな光景を思い浮かべてしまいます。可能であれば僕も歩いてみたいですが、毎年のように厚い氷が張ったのは今や昔、その光景は心に思い描くにとどめることにしています。

御神渡りを歴史でまとめ

御神渡りは諏訪大社に関係のある神々の伝説の舞台でもあり、その物語は八ヶ岳を越えます。また、御渡神事を執り行う八劔神社は高島城の築城とも大きく関わっています。絶景はそれだけでも十分に美しいですが、歴史の舞台、あるいは物語のカギでもあるのです。今後御神渡りを眺める機会がありましたら、是非ともそんな歴史にも想いを馳せてみてください。そしてくれぐれも、混雑と安全にはご注意の上でお越しくださいね!

さて、諏訪の歴史が盛り沢山な「御神渡り」ですが、そもそもどんな原理で起こる現象なのでしょう?イラストと写真をたくさん使って解説した、科学編はこちらです!

公式LINEの友達募集広告

この記事を書いた人

おざわっぷる

信州は諏訪湖のほとり出身、江戸城下町在住のアラサー。美術館や旧街道が主戦場。短期目標は写真の腕を上げること。中期目標は信州の街道の歴史にちびちび詳しくなること。長期目標は「信州って美術館が数も種類も最高じゃん」を日本の常識にすること。最終目標は壮大過ぎてスキマに収まらず、気長に乞うご期待。