冬至も目前に控えたある日、立科町の古道を案内してもらえることになった。
古道好きの変わったやつがいると聞いたらしい。わたしのことだ。
中山道かと思いきや、事前に渡された資料には「大内道(おおないどう)」と知らないお名前。
どうやら中山道ができる以前から歩かれていた歴史ある古道らしい。
▼中山道とは?こちら
大内道(おおないどう)とは?
大内道は中山道のわき道(端折り道)にあたり、長窪宿(現長和町)から岩村田宿(現佐久市)までのうち、長窪古町から芦田宿(現立科町)あたりを指すことが多いらしい(区間については確かな定義があるわけではない)。
中山道が整備される以前の1400〜1600年ごろまでは、松本と江戸を結ぶ最短距離の街道として利用されていたようだ。1543(天文12)年には、当時23歳の武田信玄によって長窪城が攻略されており、大内道は重要な軍用路だったと考えられる。
ところが江戸期になると長窪宿から長窪古町に寄らず、笠取峠を通って芦田宿へと抜けるルート(中山道)が開発される。大内道は大回りになることから交通量も減少し、幕府公認の街道とはならなかったが、芦田本陣問屋の租税回避ルートとして利用され続けたという説もある。
大内道を歩いてみよう
大内道を歩くなら、「大内道龍の子広場」に車を停めてスタートしよう。大きな看板もあり、詳しく解説もされている。
今回案内していただいたのは、「たてしな歴史研究会」のメンバーである須藤さんと市川さん、そして田口さん。立科町と歴史を愛する精鋭たちだ。
「さあ、ここがもう大内道です」と龍の子広場前の町道を指さす須藤さん。
斜度のある道は段々と細くなり、山道になっていく。
大内道のある峠は「大深山(おおみやま)」と呼ばれ、湧き水も出る豊かな山だ。
クリスマスツリーのように目立つ大きな杉の木が見えてくる。一里塚にも見えるが、誰かのお墓に植えられたものらしい。
さらに歩くと車道は完全になくなり、枯葉だらけの山道に差し掛かる。鹿除けの鉄格子もあった。
「集落で周辺の環境整備を行った一環で、古地図を基に復元整備したんです」と田口さん。街道を自力で復元するなんて、なんという愛だろうか。水路跡もあるらしいが、枯れ葉のせいかよく見ることができなかった。
ちなみに古くは「おおねいど」と呼ぶ方も多かったらしいが、いつしか標準語らしい「おおないどう」に修正されたとのことだ。心の中でなんとなしに、「おおねいど」を残していきたい気持ちに駆られた。
“おおねいど”。
かっこいいなあ。声に出したい古道名だ。
大内道の六天様に込められた願い
さらに3分ほど歩くと、すぐ見上げたところに全長1メートルほどの綺麗なお地蔵さんが見えた。
「あ!あれが六天(ろくてん)様ですね!」
思わず声が出る。想像の100倍早く見つけることができた。もっと歩くと思っていた。
さらに反対側にはもう半分くらい小さな地蔵尊。
実は大内道沿いに佇む2基の地蔵尊には、それぞれ厄病退散の願いが込められているのだ。
小さい方は1704(宝永元)年に起こった浅間山の大噴火で世情が不安定になり、上小県でコレラが蔓延したことから、2年後の1706(宝永3)年に建立されたらしい。たまたま大内道を通りがかった修行僧のお告げにより、宇山女5人衆が建立したとされる。
大きい方は1877(明治10)年のコレラ流行(長窪古町、立岩の死者45名)、1878(明治11)年の天然痘流行(長窪古町の死者4名)と疫災が続いた折に、同じく宇山女5人衆が建立したとある。
近くの大深山集落では今でも毎年4月になると灯籠が灯され、祭りが開催されている。祈りの形は続いているようだ。こうした小さなお地蔵様のお祭りが今でも続いているのはいるのは珍しく、これからも守っていきたい文化だと思う。
六天様とは?
仏教における六道(地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界)のうち、第六天は天上界最高位の自在天を指す。天魔さまともいう。いずれも疫病が長窪(長久保)から芦田に入り込まないように願って建立された。
まとめ:立科町の大内道と六天様
駐車場から徒歩10分ほどで、山の頂上らしい開けた景色が見えた。倒木に注意したい。
立科町側からの大内道は、ほとんど下り道になるのだ。行きはヨイヨイ、帰りは怖い。
だが実はこの先、太陽光パネルの影響で古道は途絶え、すべてを歩くことはできないらしい。
少し景色を眺めてから、下ってきた道を引き返す。さっきまで寒さで震えていた身体がじんわりと温まっているのを感じた。1時間にも満たない時間だったが、古道歩きの「こ」の字くらいは味わえたのかなと嬉しくなる。
「たてしな歴史研究会」では立科町のスキマな歴史を研究し、時にはこうして歩いて体感しているそうだ。興味がある方はぜひ。
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