「信濃」や「信州」「長野」の地名の由来をまとめて考察しました。
長野と言われだしたのはいつから?長野県は昔4つの県だった?「信濃」「信州」という言葉の由来は?県内出身者も知らない(かもしれない)長野の豆知識をお届けいたします!
地名の由来は地形だったり、文化だったり、神様だったりとさまざまです。私が「なるほど〜」と思った長野の地名アレコレをまとめていきたいと思います。
長野県にある地名の謎シリーズはこちら!
「シナノ」の歴史は古い
古来の名前はまず「音」から始まります。のちに漢字が伝わって当て字されたため、ひとつの「音」に複数の漢字が当てられていることが少なくありません。「シナノ」の歴史は古く、漢字は「信濃」「科野」「信野」、さらに「シナ」だけで見ると「支那」「級」「志奈」など多様です。まずは諸説ある「シナノ」の由来を3つご紹介いたします。
「科」とは「くぼんだ場所」「段差」などを意味することから
「シナ」は「級」「階」と書くことができます。
漢字を見て分かるように、古語では段差や階級を意味しています。また「科」は「くぼんだ場所」という意味も持ち、山に囲まれたこの土地の形状から「シナノ」と呼ばれていたのではないかという説があります。
江戸時代の国学者である賀茂真淵は「冠辞考(かんじこう)」で「いにしえは科野と書き、その郡にも埴科、更科あり」「山国にて級坂(しなさか)あれば地の名となりけん」と記しています。
「◯科」「◯級」とは山や段差の多い土地につけられる名前なので、「科野」もそれが由来であるとしているのです。
古代より「シナノキ」が多く自生していたから
また有力な説として「シナノキ」の存在が挙げられます。「科の木(シナノキ)」は長野市の「市の木」にもなっており、今でも県内に多く自生しています。シナノキは皮の繊維が強いため、昔から日常品などに使われてきました。
江戸時代の国学者である谷川士清(たにかわことすが)は「日本書紀通證(にほんしょきつうしょう)」に「科の木ここに出ず」と書いています。「シナノキ」が多く自生していたこの地を「シナノ」と呼んだのではないかということです。
では「シナノキ」の由来はなんなんだということになりますが、よく調べると「シナ」とは「縛る」「くくる」なんて意味もあるそうです。「シナノ」ではこの「シナノキ」を使って縄作りや布作りが盛んに行われてきました。
ここからはあくまで私の想像なのですが、元々あった「シナノ」という国に多く自生していた木を「シナノキ」、そこから転じて、縄作りなどに使用することから「シナ」が「縛る」「くくる」と言った意味を持つようになったのでは?なんて。
ちなみに「シナノキ」はドイツ語で「リンデンバウム」、「リンデンバウム」は日本語で「菩提樹」になります。ブッダが悟りを開いたあの菩提樹とは別の品種ですけどね。熱帯地域のインドとは自生する気が異なるので、似ている木を「菩提樹」として寺院の境内に植えられるようになったものが分布し「シナノキ」になったのだそうです。
風神「級長津彦命(シナツヒコノミコト)」から
シナツヒコノミコトは、日本神話の神さまです。 「シナ」とは神名で「息が長い」という意味があります。古来より「風は神さまの息によって起こる」とされており、シナツヒコノミコトが風神であることも名前から想像することができます。風は稲作に欠かせない大事なものですが、暴風となれば人や田畑に大きな被害をもたらします。
『古事記』では志那都比古神(しなつひこのかみ)、『日本書紀』では級長津彦命(しなつひこのみこと)、神社の祭神としては志那都彦神などとも表記されます。「シナ」の字は「シナノ」のそれと当てはまるところがありますね。
諏訪大社では以前「風祝(かぜのはふり)」という神事が行われていました。諏訪の風神信仰は、持統天皇が691年に起こった異常気象を鎮めるためにわざわざ祀ったほど。稲作に欠かせない風の神様を地名の由来にしたのでは?という説です。
8世紀頃書かれた古事記にはすでに「科野国」の文字が
その名の由来には諸説ある「シナノ」が「科野」として文献に現れたのは今から約1300年以上前に遡ります。646年の大化の改新により地方制度が改められ、陸奥国から近江国を貫く東山道の一国として「科野国」が定められたのがはじまりです。同年代に編纂された古事記にも「科野国」と表記されています。
「科野」から「信野」そして「信濃」へ
その後 713年に「好字二字化令(こうじにじかれい)」が交付されます。要は国印を作りたいから、国・郡・郷の名前を縁起の良い字に変えましょうね、ということ。ここで「科野」は「信野」を経て「信濃」と名前を改めることとなったのです。以降の文献では「信濃国」に変わっています。
「信州」の「州」とはクニを意味する
では「信州」 という言葉はどこから出てきたのでしょうか?「州」とはクニを意味します。昔中国で使用されていた「クニの漢字1文字+州」という呼び方が日本で流行った時代があったようです。そこで信濃国の「信」+「州」で「信州」となりました。
信州だけでなく「甲斐国→甲州」「武蔵国→武州」、また「和泉国→泉州」「紀伊国→紀州」なんて呼ぶこともあります。ともあれ長野県では「信州」という単語をよく使いますし、長野県唯一の国立大学の名前にもなっています。
「長野」とは元々北信地域の一部を指した
「長野」と聞くと、長野県全土よりも「長野市」をイメージする県内出身者の方は多いかと思います。「長野」は北信の一部地域、「信州」「信濃」が長野県全土を表す言葉だというイメージを持っている方は、長野県の歴史を肌で感じられているのではないでしょうか。まずは「長野」という言葉の由来と意味を探っていきます。
「長野」が初めて登場したのは戦国時代
「ナガノ」という言葉は「シナノ」よりもずっと後、川中島の合戦が終わった1570年頃初めて登場します。文献では、武田信玄が1570年に葛山城(善光寺の裏山三名城のひとつ)の葛山衆に「長野のうち五貫文」の領地を与えたとして使われているのが最初。
「長野」とは読んで字のごとく「長い平野」のこと。これは長野盆地(善光寺平)が細長いことから名付けられたと考えられます。現在の長野県も長細く長野県全土の由来だと思われがちですが(わたしはずっとそう思っていました)、元々は小さな善光寺平の一部地域を指す言葉だったのです。
「長野村」から「長野市」、そして「長野県」の誕生
明治には「後町」「大門町」「元善町」「桜枝町」「長門町」「上長野」「下長野」「東之門町」「西之門町」を合わせて「長野村」と呼ばれるようになりました。
一方江戸時代の終わりに新政府が廃藩置県を進め、「伊那県」「筑摩県」など当時の藩ごとにいくつかの県を定めます。1870年には北信と東信を独立させ「中野県」を定め、県庁を高井郡中野に置きました。しかし世直し一揆の農民蜂起騒動(中野騒動)が起こり、中野の町と県庁が焼失する事態が起こってしまったのです。
そこで翌年県庁を「長野村」に移転し、県の名前もそれに伴って「長野県」に改められました。こうして現在の長野県と飛騨地方の一部をもって「伊那県」「長野県」というふたつの県が誕生したのです。
筑摩県庁の焼失による「長野県」の完成
「伊那県」「長野県」と定められた信濃は、そのわずか4ヶ月後に政府の意向により「長野県」と「筑摩県」に再編成されます。「筑摩県」の県庁は旧松本城内に置かれていましたが、5年後の1867年放火に遭い焼失。
ちょうど府県統合政策を進めていた明治政府はこれを機に「筑摩県」を廃止し、中信と南信を統合したのち飛騨を岐阜県に併合しました。これが現在の「長野県」の姿となったわけです。
【地名】信濃や信州の由来と意味を考察してみた。

いかがでしたか?「名前」には人々の思いや歴史が隠されています。普段何気なく通り過ぎている土地の名前にも、ひとつひとつに意味が込められているのって面白い。これからも長野のちょっとした地名の謎や見どころを紹介していければな〜と思います!
地名の謎はシリーズで連載中!よければタグページ「地名の由来」からご覧ください。
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